仕事を終え、与えられた部屋へ戻る。
住み込みの仕事。
食事もあるし給料も悪くない。
何より一人身の自分にはここは悪い環境ではなかった。
泣く子も黙る新撰組にわざわざ侵入してくる悪者はいない。
一人で暮らしているより自分が気を付けていれば安全だ。無料の用心棒だ。
「一人・・。」
たった一人の家族の父親が死んだ。
「仲良く二人で暮らしていこうな。」
優しい父親だった。
病はあっという間に父を連れて行ってしまった。
「私を・・一人にはしないよって言ったのに。」
机に突っ伏して呟いた。
「どうして・・。」
原「おーい、名前?入るぞ。」
「ん・・。」
原「寝てるのか?そんなところで寝るな。」
「原田さん?」
いつの間にか寝ていたらしい。
顔を上げると原田さんがお酒とお茶を持って立っていた。
「どうかしました?」
原「少し話したくてな・・いいか?」
「はい、どうぞ。」
原田さんは静かに座った。
私にお茶をくれ、自分はお酒を飲み始める。
「どうかしました?」
原「新八のことなんだけどよ。」
「・・。」
原「少しは話してやってくれないか?お前、他の奴にはそれなりに話しているだろう?」
「必要以上話したりはしていません。仕事があればお話ししますが。」
原「俺はいいのか?」
「原田さんは・・安全そうなので。」
原「安全ねぇ・・。」
原田さんが女性に人気があるのはわかるし、それなりに女性とお付き合いもしているだろうとは思うけれど、私に対する視線は妹を見ているようなものだと感じている。
原「どうしてそんなに新八にはあたりが強いんだ?」
「ではどうして永倉さんは私が好きなどとおっしゃるのでしょう?」
原「?」
「ほとんど話したこともありません。それなのに好きになりますか?」
原「好きになっちまったら仕方ない。そんなもんだろ。」
「でも・・。」
原「なら、なおさら話してみてくれよ。それでも嫌なら断ればいいんだ。」
「・・・。考えます。」
原「ありがとな。夜遅くにすまなかった。」
それだけ言うと原田さんは部屋を出て行った。
永倉さんのことが大切なんだなー。
なんか・・いいな、家族のようで。
そんなことを考えながら
原田さんの持ってきてくれたお茶を飲み干した。