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雨の音が全てを消してくれる。
荒くなる息も、微かにもれる声も。
強く目の前の体を抱き締めればぎゅっと袖を掴む指に力が入るのがわかった。
ただの口づけがこんなにも…心をかきみだすものなのか。
それは許されない恋だから?
それとも…


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「この人は山崎君。」

「初めまして。」

目の前に急に現れた人物に少しだけ動揺した。
屯所のなかに女性がいるなど考えてもいなかったからなのだが幸い自分の動揺は目の前の二人には伝わっていないらしい…いや、沖田さんは気づいただろうか。

「監察方の人だよ。」

「監察…?」

「まぁ色んなことを調べる人かな…。」

「はぁ…。」

沖田さんが俺の説明をしている間、彼女はじっとこっちを見ていた。いたたまれなくなって目を逸らしたいのに何故かできない。
白い肌、大きいとは言えないが涼しげな瞳、立ち振舞いが育ちのよさを醸し出している。

「山崎君は土方さんから信頼されててね。…まぁ仕事できるし、何かあったら頼るといいよ。」

沖田さんの口から他人を、ましてや自分を褒める言葉がでるとは思わず俺は思わず目を見開いた。
そしてそれ以上に彼女を見る眼差しの優しさに開いた口が塞がらなくなる。


「今日は…雪でも降るんですか?それとも俺は夢を見ているんですか?」

「山崎君、どういう意味?」

沖田さんの視線がいつもと同じ鋭さに戻り、内心ほっとした瞬間。

「えっと…山崎さん。もう春になるので雪は降らないとおもいますよ!」

真剣に空を見ながら呟いた彼女に。
俺と沖田さんは思わず笑ってしまったのだった。




それが彼女との出会いだ。
そして彼女は…沖田さんの妻となる人だった。





局長の知り合いが亡くなってしまい一人娘を生前託されていたらしい。
年もちょうどいいということで局長は沖田さんに彼女を会わせたそうだ。
副長は沖田さんが誰かに執着することなどありえない、他の人間を…と探そうとしていたらしいが予想外のことが起こった。

沖田さんが彼女を好きになったのだ。

彼女はまだ父親を亡くしたばかりでしばらく嫁ぐ気にはなれないと言っていたらしいがいつまでも待つと言ったのだ。あの沖田さんが。

その事実を副長から聞いたときは信じられなかったがいざ自分の目で見てしまうと疑うこともできない。

彼女は屯所の近くの長屋に住むことになり食事や洗濯などを手伝いに昼の間は屯所にくることになった。
もちろん帰りは沖田さんが家まで送り、泊まることはせず屯所に帰ってくる。
そこに沖田さんの本気を見た。

まぁいいことだ。
あれから沖田さんは穏やかになったと思う。
もちろん普段は相変わらずのあの人だが彼女がいる昼間は行動が落ち着いているのだから。
沖田さんをここまで変える彼女はどんな人物なのか…気にはなったが日常の仕事にかきけされ気づけば挨拶をした日から三ヶ月が過ぎていた。




   

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