斎「…っ。」
自分の頬に何かあたたかいものが流れていることに気づく。
泣いているのか?俺が?
まだ酔うほど酒も入っていないのに。
どうして俺が泣くのだ。
泣きたいのは名前のほうじゃないか。
斎「好きなのだ…。」
愛している。
誰にも渡したくなんかない。
なのに現実はどうだ。
忙しさを理由に何もしてやらなかった。
こうして今も。
名前にどう触れていいかもわからない。
そこまできてしまったのだ。
もしも時間を戻せるなら。
どんなに忙しくてもメールの一通でも送る。
帰ってきたら優しく抱きしめる。
愛の言葉を紡ぐ。
どんな手を使っても…寂しい思いなんてさせるものか。
だけど。
時間は戻らない。
やりなおすことなんてできない。
これ以上一緒に過ごしても、きっと。
俺は彼女を傷つけるだけなのだろう。
だったら。
斎「愛してる…。」
言わなくては。
斎「愛している…名前。」
俺が、俺から。
斎「愛している。」
別れの言葉を。
どんなに覚悟しても、きっと引き裂かれるような思いをするはずだ。
だが、一人になるのは俺だけで十分だ。
立ち上がり、寝室へ向かった。
暗闇の中でもわかる存在。
最後にもう一度、わがままを許してもらえるだろうか?
静かに布団に入り、彼女の小さな体を抱きしめた。
「…ん。はじめ…?」
斎「名前。おやすみ。」
一瞬目を覚ました彼女の頭を優しく撫でる。
心地よいのか微笑んで再び眠りについた。
ああ、俺の好きな表情だ。
きっと離れれば最初は悲しむかもしれない。
だけどそんな気持ちも日常に消えていくだろう。
何より総司が居る。
あいつは名前を幸せにしてくれるはずだ。
斎「愛してる。」
俺達の出会いは偶然だった。
ただそれだけのことだ。
目を覚ましたらまずは謝ろう。
そして、真っすぐに伝える。
二人が新しい道を進む為のさよならを。
終