「っああ!」
沖「名前ちゃん!!!」
そいつは倒れていた名前ちゃんに刀を振り下ろした。
彼女の着物がみるみる赤く染まっていく。
沖「っ!!」
浪士を斬りつけると苦しそうな声をあげて倒れた。
浪士「はは…この…ほうが…苦しいだろ?」
沖「黙れよ!」
口が聞けないように喉元を斬りつけると今度こそ絶命した。
沖「名前ちゃん!名前ちゃん!」
刀も投げ捨てて彼女を抱き起こす。
沖「今医者に診せるから!大丈夫だから、しっかりして!」
「沖田さん…。」
ごぽっと彼女の口から血が流れていて。
虚ろな目で僕を見ていた。
本当はわかってる。
何人も斬ってきた。何人も殺してきた。
この傷が助かるものじゃないことなんて…わかってる。
でも信じたくない。
沖「名前ちゃん!」
「だい…じょうぶですから…。」
沖「何が!何が大丈夫なのさ!」
「私は死んでも…後悔してないんです…。」
彼女の言葉に僕は耳を疑った。
死んでも後悔しない?
そんなことあるはずないじゃない。
殺されても後悔しないなんてそんなこと。
沖「そんなこと…あるわけないじゃない。それに僕、まだ君の新しいご飯…食べてない…。」
「ふふっ…げほっ。」
背をさすってあげても彼女の口からでてくるのは血だけだ。
傷口を手ぬぐいで押さえてもあっという間に赤くなって止まらない。
沖「ごめん…ごめんね…僕が…僕のせいで…。」
「沖田さん…。」
小さく震えながら、名前ちゃんの手が僕の頬に触れた。
「あなたは…私を殺したんじゃない…私を…助けてくれたんです…二回も。」
彼女の手が血じゃない何かで濡れていた。
多分、僕は泣いているんだろう。
「沖田さん…人は…死んだら、皆同じ所にいくのでしょうか?」
沖「え?」
突然そんなことを言われて僕は戸惑う。
名前ちゃんは真っすぐ僕を見ていた。
「だとしたら、また兄と同じ…ところに…いくんです…ね。」
斬られているというのに、苦しい表情もしないで彼女は呟いた。
兄のことを思い出したのか、やはり無表情で。
沖「僕が…。」
「え?」
沖「僕がまた斬ってあげる。」
僕はうまく笑えているんだろうか?
でも彼女は少しだけ微笑んだ。
沖「非道だと思う?」
「ふふ…いいえ、やくそ…く…ですよ?」
沖「うん。約束だよ?」
僕の言葉を聞いて、彼女は目を閉じた。
そして、その目が開くことはもうなかった。
彼女の遺体を床にそっとおろすと何人かの足音が近づいてくる。
斎「総司!!!…これは!?」
どうやら一郎が一君達に説明してくれたみたいだ。
しゃがみこんでいる僕の背中を見て何か思ったのか、一君は三番組の隊士に浪士達の処理を命じている。
斎「総司、怪我は?」
沖「やだなあ、一君。僕が怪我なんてするわけないじゃない。」
相変わらず振り向かない僕に一君は一瞬躊躇いながらも聞いてきた。
斎「…知り合いか?」
沖「ん?ああ僕達が斬った浪士の…妹さんだよ。」
斎「…。」
沖「あーあ。土方さんになんて報告しようかな。…やっぱり、斬りかかられたんで返り討ちにしました、でいい?」
斎「総司…。」
沖「一君。」
――ごめん。一人にして。
多分、僕は笑えていたと思う。
その言葉だけ残して僕は小屋をでた。
一君は追いかけてこなかった。
ねえ、名前ちゃん。
君は本当に僕のこと憎んでないのかな?
いっそ憎んでくれたら良かったんだよ。
君を僕の殺風景な世界に引きずり込んでしまったこと。
名前ちゃん。
僕にはこんな感情いらなかったんだね。
君のことでいっぱいで、浪士が生きていたことに気が付けなかったなんて。
そんなに弱くなるなんて。
本当に…ごめんね。
名前ちゃん。
気付き始めていたこの甘い感情には蓋をして、また前の僕に戻るよ。
この感情の答えは、いつか君の所へ逝ってから知っていきたいな。
名前ちゃん。
君は僕に色のある世界を見せてくれた。
ありがとう。
さようなら。
…今は。
ただ冷たい刃となって。
ここに生き続けるよ。
終