3 


原「そんなに頑張っているのはやっぱり総司の為なのか?」


 「え!?そ…総司!?あの、原田さん!?」


原「俺じゃだめなのか?」


 「!?」


少しだけ体を離して名前の顔を見る。
真っ赤な顔は完全に酒のせいじゃないだろう。
普段あんなに勝ち気な女がこんなにしおらしくなるのか。

らしくねえな。
好きな女相手だと甘い台詞の一つもでてこない。
本当だったらまずは言葉で伝えて、それから…のはずだっていうのに。


原「…名前。」


 「はい…?」


原「嫌なら全力で避けろ。蹴っ飛ばして良い。」


 「は?」


それだけ告げると、俺はゆっくりと顔を近づけた。
その行動の意味を理解したのか、名前は一瞬目を見開いた…ところまでは確認する。



目を閉じて頬に手を当て、しばらくすると柔らかい感触が伝わった。




 「原田…さ…。」


原「名前…。」


一度したらもう止まらなかった。
名前の後頭部に手を添えて何度も何度もキスをする。
最初はぎゅっと俺の服を掴んで強張っていた体も段々と力が抜けていっていた。


 「はら…くっ…くるし…!!!」


原「っ!悪い!」


ドンドンと胸を叩かれて俺は我に返った。
名前を離すと目を潤ませながら肩で息をしている。


 「あの…原田さん…。原田さんは…その…。」


原「悪い。いきなりこんなこと…。」


 「いいえ!そうじゃなくて、その…私のこと…。」


原「ああ。好きだ。」


俺の言葉にまた瞠目した名前はそのまま固まってしまった。


原「全然気づいてなかったのか。それはそれでショックなんだが…。」


ふられるのがわかってると意外と心が軽いもんだ。
多分顔も笑っているはずだろう。
なのにこいつの口から飛び出した言葉は意外なものだった。


 「そ…そんな…私なんて全然まだまだできる女じゃないのに!」


原「は?」


 「だ!だって!総司が…原田さんはできる女っていうのがタイプだって言うから。」


原「はあ!?」


 「前に原田さんはどんな人がタイプなのかなって聞いたんです。総司が「左之さんはできる女って感じの大人の女性がタイプだよ。」って言ってたんで…。私、仕事も家事もがんばってできる女になろうと…。」


いやいやいや。
俺、そんなこと言った覚えがないぞ。
…総司、適当なこと言いやがって。


原「じゃあ、いろいろ頑張ってるのは俺のためなのか?」


 「…はい。本当は料理も苦手ですけど、お弁当だけは頑張ろうって。…冷食に頼ってますけど。」


原「仕事も?」


 「はい。少しでも見てもらえるように。認めてもらえるように…きゃっ!」


原「そんなことしなくったって。」


俺はずっとお前だけを見てたよ。


耳元で囁くと、耳まで真っ赤にして名前は恥ずかしいですと零した。


 「私、頑張って原田さんの理想の女性になってみせますから!!!」


そんなことを言って笑う名前に。
もう完璧すぎるからこれ以上頑張らないでほしいと思う。
だってこいつを狙う奴が増えるってことだろう?


…まあ、たとえ総司だろうと他の奴だろうと、渡すつもりはないけどな。



原「もう十分だ。だから…。」


これからも俺の一番近くに居てくれよ。
それだけで、俺は。
十分幸せなんだから。






  end 

 ←short story
×