「原田しゃん原田しゃん!もう一軒行きましょうよー!!!」
原「馬鹿!飲み過ぎだ!っと危ねえ!」
ふらふらと一人で歩き出した名前は案の定何もないようなところで躓いて転びそうになる。
ギリギリのところで腕をひいてやり、顔面から落ちることだけは免れたが当の本人はニコニコ楽しそうだ。
原「飲ませすぎたな…悪い。」
「何で原田しゃんが謝るんです?楽しいですよ!!」
原「いや、そういうことじゃなくて。」
顔を赤くしてメイクが崩れた状態でへらへらと笑う顔も可愛いとか思っちまう俺は末期だ。
掴んだ手首の細さに少しだけ揺らいだ理性を何とか取り戻し、俺は駅までの道を名前を支えて歩き出した。
「もう一軒行かないんですか?」
原「もう一軒行ったら帰れないだろうが。」
「まだ十時ですよ、原田しゃん。」
原「時間の問題じゃねえよ。」
俺の理性…いや、お前が歩いて帰れなくなるのが問題だ。
「…原田さん。」
急に言葉遣いが通常に戻った名前を見ると青い顔をして口元を押さえていた。
これはまさかと思うが。
原「待て!もう少しだけ我慢できるか?!」
「ううう…。」
原「ほら、そこの公園のトイレまで頑張れ!」
「はい…。」
視界にトイレを確認した瞬間、名前がヒールとは思えないスピードでトイレに入り込んだ。
俺はそれを確認した後、すぐ近くの自動販売機で水を買い、離れたところで待つ。
背中をさすってやるべきか迷ったが、こういう時は近くに居られたくないだろうと考えた。
五分ぐらいしたところで名前が戻ってきたがまだ表情が暗い。
原「どうした?まだ気持ち悪いなら急いで出てこなくても良かったんだぞ?」
水を手渡すと小さな声でありがとうございますと言いゆっくりと口をつける。
「いえ…大丈夫です。その…。」
原「?」
「は…恥ずかしいじゃないですかあ!」
原「は?」
「だって…トイレかけこむとか…ましてやリバースするなんて!!!」
顔が赤いのは酒のせいだけじゃないらしい。
頭を抱え込むように慌てている名前に笑いがこみあげてくる。
「なっ何で笑うんですかー!」
原「いやあ、悪い悪い。」
「絶対誰にも言っちゃだめですよ!?特に総司!!!」
原「総司…。」
やっぱり。
名前は総司のことが好きなのか。
「私、あいつにだけは弱みを握られたくないんです!仕事もプライベートも頑張って、できる女になりたいんですよ!!」
ぐっと握りこぶしを作って熱弁する名前は普段だったら可愛く見えるが。
【総司】の言葉に苦しくなる。
酒のせいか落ちついていられねえ。
ぐいっと思い切り腕を引いて自分の腕の中に名前を閉じ込めた。
ゴトンと名前の手にあったはずの水のペットボトルが地面に落下する。
「え…?」
固まったように動かなかった名前がバタバタしだしたのは五秒後。
それでも逃げられないように強く抱きしめると大人しくなる。
「どうしたんですか?原田さん??」
こんな状況でどうしたとか聞けるのか。
本当にお前は…俺のことは何とも思ってねえんだな。