(…いたずら…だよね、いないよね。)
休みの日の朝から私は何をしているんだろう。
昨日お茶を貰った自動販売機が見える位置でこっそりと様子を窺っている私は不審者だろう。
約束の時間まで後五分。
壁からこっそりと自動販売機の方を見ていると急に肩を叩かれた。
「ひっ!」
沖「おはよう。名前ちゃん。来てくれたんだね。」
「あ…あの…昨日、助けてもらったのにお茶まで貰って…。」
なのにまさか来ないわけには…とどもりながら返事をすると沖田君はポンポンと私の頭を叩いた。
沖「はいはい、落ち着いて。じゃ、行こうか?」
「え?」
まさか…。
やっぱり…。
壺とかネックレスとか買わされるんだ!!!
と思っていた私が連れてこられたのは水族館だった。
入口で拍子抜けしていると沖田君はさっさとチケットを買っていたらしく。
沖「どうしたの?行こうよ。」
「え?あ。うん。」
何だかよくわからないけれど沖田君に手を引かれて中へ入る。
私どうしてこんなことに。
昨日出会った他人と出かけるなんて考えられない。だけど。
沖「ほらほら、あの魚、綺麗だよ。」
楽しそうに指さして魚を見ている沖田君は悪い人に見えなくて。
「そうだね。…おいしそう。」
沖「…名前ちゃん。それここで言う?」
呆れたような眼差しで私を見つめたくせに、すぐにふきだして笑い声をあげた。
沖「回転寿司でも行く?」
「いっ…いいです!冗談でしょ!?」
沖「いやいや、あれは本気の目だったよ。」
「もう。先に進むからね!」
沖「あ、待ってよ。」
その後、ゆっくりと水族館を回って過ごした。お土産屋さんでイルカのぬいぐるみを見つけると沖田君はそれをこっそり買っていてくれたらしい。
可愛いプレゼントに思わず笑ってしまうと沖田君も嬉しそうに笑ってくれた。
その表情に一瞬胸が音を立ててはねた気がした。
沖「ねえ、名前ちゃん。昨日みたいなこと、今までもあったの?」
「え?」
沖「衝動にかられるようなこと。」
「それは…。」
別に自ら命を絶とうとまでは思っていなかった。昨日のは本当にたまたまだと思う。
…いや、思いたいだけなのかもしれないけど。
沖「何で…。」
「だって、私がいなくなったって。」
世の中は変わらない。
朝が来て夜が来て、地球は何も変わらないで回っていくんだから。
だったら、いてもいなくても一緒だよ。
むしろ地球にとっては良いことかもしれない。
そんなことを淡々と告げると沖田君は辛そうな表情で私を見ていた。
ねえ、どうして。
どうしてそんな悲しそうな顔で私を見るの?
そして。
どうして私も。
心が苦しくなるの?
沖田君にそんな顔されちゃ、悲しくなる。