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四角い箱に入って、名前も知らない他人と同じ目的地へ向かう。
ガタンゴトンと体が揺れて、景色が変わる速度が上がった。



体を動かさず、視線だけを動かして座っている人間を観察する。
子供、お母さん、男の人、おじいちゃん、おばあちゃん。


化粧中の女の人、高校生が二人、音漏らしても気づかない男の人。


今日も平和に時間が過ぎる。


アナウンスが流れて箱が止まった。
プシュッと音がして開いた扉の向こうへ足を踏み出した。


数歩歩いて立ち止まる。
後ろを振り向けばさっきまで乗っていた箱は次の目的地へと動き出していた。



そしてしばらくしたらまたやってくるんだ。
そこに飛び出したら。


全てが終わるんだろうか?



何かに苦しんでいるわけじゃない。
何かに困っているわけじゃない。



なのにどうして。
時々変な衝動にかられるんだろう?


死にたいんじゃなくて。
消えたいんだ、きっと。


ふわりと体が揺れた。



そして。



沖「ちょっと!」


 「?」


ガシッと腕を掴まれて強く引っ張られる。
と、同時に引き戻されるいつもの自分。



沖「危ないよ、君。」


 「え?」


気がつけば私はホームの端っこに立っていて。
その私の腕を背の高い男の子がしっかりと掴んでいた。

周りの人たちもその声でこちらを見ていた。


 「あ、すみません。大丈夫です。」


しまった。
よりにもよってこんな人の多い時間に。


恥ずかしさもあり、私は男の子にお辞儀をすると走るようにその場を去って行った。

   

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