平「俺さ…。」
「ん?」
何だか今なら自然にあの時の俺の気持ちを伝えられる気がした。
思い出話をするように。
平「あの時、お前のこと好きだったんだ。」
ざわざわと賑やかな会場で。
俺達の間に一瞬だけ沈黙が訪れた。
平「何であの時ちゃんと言わなかったんだろうなーって今思う。ってかもしかして気付いてたりする?」
昔の事として語ると、あの時の思いはこんな簡単な言葉になるんだな。
自分で伝えておきながらあっさりしている言葉に拍子抜けする。
「…うん。多分。」
平「多分って何だよ。」
「気付いてた。平助君、あんなに明るくて元気だったのに…意気地なし。」
平「ひでっ!」
名前から出てきた言葉に驚いたが、思わず笑ってしまった。
だってその通りだ。俺は完全に意気地なしだ。
「でも、私もだから。」
平「え?」
「私も、意気地なしだった。」
困ったような、悲しいような。
だけど懐かしんでいるように微笑んだ名前。
それはつまり。
平「…まじかよ。」
昔のことだってわかってるのに。
あの時両思いだったというだけで、こんなにドキドキするもんなのか?
こんなに嬉しくなるもんなのか?
「勇気だせばよかったのかな。」
平「ああ。俺も。」
だけどもう五年も前だ。
今からどうこうなるわけじゃない。
それはそうなんだけど。
でも、ここで何もしなかったら。
俺はまたあの時みたいに後悔するんだろう?
平「なあ、今度さ、飯でもいかない?」
「え?」
平「できれば、二人で。」
「平助君…。」
自然と口から出た言葉。
この離れていた五年間がきっと、名前も俺自身もあの時とは変えているはずだ。
だけど。
名前を知りたい。
名前とまた一緒に笑いたい。
この思いは本物だから。
「うん。私で良ければ。」
平「…まじで?」
「うん。」
平「俺、もう後悔したくないからさ。意気地無しは卒業する。」
「…私も。」
そう言って笑った名前はやっぱり綺麗になってて。
だけどそれに負けないように俺も背筋を伸ばした。
平「でもやっぱりあの時、ちゃんと伝えたかったな。」
「どうして?」
平「だってちゃんと伝えていたら、この五年間も一緒にいられたかもしれないじゃん。お前のこともっと知ることができたのに。」
「あはは。そう言われると嬉しいけど…でも、これからいろいろ知っていけたらいいじゃない。だって。」
時間はたくさんあるんだから。
そう言って笑う名前に胸がきゅうとなった。
なんだかよくわかんないけど泣きそうだよ、俺。
その後、一次会が終わり、いくつかのグループが二次会へ行こうと騒いでいる中。
名前の手を引いてこっそりと会場を抜け出した。
やっぱりというかなんというか総司だけは気付いてたみたいだったけど。
後で詳しく聞かせてよとメールがきていただけだった。
そうだな、次に飲んだ時に。
総司が不機嫌になるぐらいの惚気話をできるように。
俺は名前の手をひいて賑やかな街を歩きだした。
終