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無事(?)講義を終えて私たちは大学の入り口まで歩いてきた。
すると平助君がちょっと待っててと言い残してどこかへ走っていってしまう。


ぼーっと道路を眺める。
下校中の高校生が何人か歩いていた。
するとそこにさっと二人乗りをしているカップルが通りがかった。


彼の腰に手をまわし、楽しそうに話している女の子に一生懸命ペダルをこいでいる男の子。



 「いいな…。」


思わずぽつりと呟いた。
制服着て二人乗りして。
そんな高校生デートをしてみたかった。
どうしてあの時は恋愛に興味がなかったんだろう。



平「お待たせ!ってどうした?」


 「あ、ごめん。」


振り向くと平助君が自転車を押していた。
思わず目がいってしまう。


平「これでどっか行こうぜ!映画でも見に行くか?」


 「あの…二人乗り?」


平「そうだけど…だめ?」


 「ううん!今ちょうど二人乗りしてみたくて!!!」


平「してみたいって…したことないのかよ?」


 「いやあの…好きな人と二人乗りに憧れて…。」


思わず今見た光景を説明してしまった。
何言ってんだろう私。
全然恋愛してませんでしたって改めていってるようで恥ずかしくなってきた。


平「そっか…。よし!じゃあ乗れって!」


 「お…お邪魔します。」


ふわりと自転車の後ろに跨る。
でも手のやり場に困ってしまう。
肩?腰?どこがいいのかな?


手を宙に彷徨わせたまま固まる私に平助君は振り向いて笑った。


平「手はここ。」


そう言って平助君は手を腰にまわさせる。
背中に顔が触れてしまってものすごく恥ずかしい!


平「出発ー!!」


そう言って彼はペダルをこぎだした。



最初は慣れなくて少し怖かったけれど、平助君の運転は安定していてそのうち周りを見られるぐらいリラックスできた。
風が気持ちいい。


平「ほんとは不安だったんだ。」


 「え?」


平「いや、大学生だからさ。車の方がいいんだろうけど、俺車持ってないし。自転車なんて高校生見たいって思われたらどうしようって。」


そんなこと考えもしなかった。
車は便利だと思うけど別になくったって困らないし。
何よりこうして自転車でデートするほうが楽しいから。



平「でも自転車でも喜んでもらえたからほんと安心した。」


 「ううん、むしろ自転車の二人乗りに憧れてる私って子供っぽいよね…。」


そうか。
大学生ならドライブデートか。


平「あのさ。」


信号が赤になり、自転車をとめた平助君が振り向いた。
密着しているせいもあって顔が近くてドキドキしてしまう。


平「名前は今まで付き合ったことがないからどうしていいかわからないとか、経験ないから恥ずかしいとか前に言ってたけどさ。」


 「うん…。」


平「気にしないでほしいっていうか…むしろ俺は嬉しいから。」


 「え?」


平「だってこうやって名前のしてみたいこと一つずつ俺が叶えてあげられるんだろ?それすっげえ嬉しいことなんだぜ?」


 「平助君…。」


平「だから、お前のしたいこととか遠慮しないで言ってくれよ!これからいっぱい思い出作ろうな?」


そう言って笑う彼を見て。
本当に本当に幸せで。


 「ありがとう。平助君。」


大好きと呟くと平助君が真っ赤になる。
照れを隠すように自転車をこぎだした。



私のしたいことって何だろう?

一緒に映画見て、その後はアイス食べたいな。
プリクラもとりたいし、そのままゲームセンターで遊ぶのも楽しそう。
その後はどっちかの家でご飯食べたい。
DVDでもかりてこようか?
ココアでも飲みながら二人で見ようよ。


平助君が優しいから。
どんどんしたことが溢れてきた。
ああワガママになってしまいそうだ。


映画館について駐輪所に自転車を止めた。
近くの入り口からエレベーターに乗り込む。


私は考え付いたたくさんのしたいことを伝えると平助君は目を丸くする。
だけどすぐに笑った。


平「お前のしたいことすぐにでも叶えられるもんばっかりなー。」

 「え?!」


平「そんなん全然ワガママじゃないから。」


くしゃりと髪を撫でられる。
平助君に触れられるのにまだ慣れなくてこういうときはいつも俯いてしまうんだ。


平「じゃあ俺も一つお願いしていい?」


そう言われると平助君の手が私の頬に触れて上を向かされる。


 「ん?!」


気が付いたら平助君の顔は目の前で。
キスしてる…って思った頃に唇が離れた。



平「名前からもしてほしいな。だめ?」


いつも俺からだし…と消えそうな声で言う平助君。そういえば恥ずかしくて私からしたことなかったけど、もしかして不安にさせてたのかな?


 「あ…あの。」


平助君の服を摘んで引き寄せようとした瞬間。


エレベーターの扉が開いて映画館のある階にたどり着いたことを示していた。


平「着いちゃったな…。」


 「うん…。」

ゆっくりとエレベーターから降りるとチケット売り場に向かい列に並ぶ。


平「じゃあ、俺のお願いは最後でいいや。家に帰ってから。」


 「え?」


平「でもまあ。」


――止まんなくなったらごめんな?


耳元におりてきた声にうえっ!?と変な声がでてしまった。
周りの人の視線も痛いけど何よりクスクス笑っている平助君にいたたまれない気持ちになる。


 「へ…平助君!」


平「ごめんごめん。ポップコーン買ってやるから許してって。」


 「許しません。」


平「ええ!?」


怒るなってー!と慌てる平助君に、そっぽを向いていた私も思わず笑ってしまった。
きっと私のしたいこと全部叶えてくれて。
帰りも仲良く二人乗りをするんだろう。


これから先もずっと。
あなたと甘い時間を過ごせますように。







  end 

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