土「何があった。」
布団をかぶっても先生が出ていってくれる気配がない。
それどころかベッドの横にある椅子に座る音まで聞こえた。
と、同時に布団を剥ぎとられる。
「何って…。」
土「雪村がお前の様子がおかしいって連絡してきたんだよ。」
「雪村さん…。」
その名前、先生の口から一番聞きたくないんだけど。
「お二人は付き合ってるんですか?」
雪村さんに聞けなかったのに。
よりにもよって先生に聞くなんて私どうかしてるんだ。
土「は?」
先生は目を丸くする。
あ、この表情は初めて見たな。
驚いた顔なんてなかなか見られないから。
「先生。」
先生の返事を聞くのが怖くて。
一方的に話し続けた。
「私がもっと元気だったら。先生の特別になれたのかな?」
「名字?」
「患者とお医者さんじゃなくて、もっと違う出会い方をしていたら。」
たとえば看護師さんとか。
薬剤師でも医者でも。
もっと違う出会い方をしていたら。
先生は私をもっと違う風に見てくれたのかな?
ぽろっと涙がこぼれた。
一粒でたらもう止まらない。
次から次へと流れていって。
体中の水分全部持っていかれる気がした。
土「…何泣いてんだ。」
ごしごしと目元をこすられる。
少しは焦ってよ先生。
それとも女の人に泣かれるのは慣れてますか?
それ以前に女の人と認識されてないんですか?
土「医者はな、患者泣かせるのが仕事じゃねえ。」
「でも先生のせいだもん…。」
いや、違うんだけど。
先生は悪くないんだけどね。
土「患者が少しでも笑えるようにするのが仕事なんだよ。」
そう言うと先生は私を引き寄せ抱きしめた。
………?
……?
え?
抱きしめた?
「せっ!?せんしぇい!?」
あ、かんだ。
土「なんだよ。」
「何してんすか…。」
土「うるせえ、黙ってろ。」
「無理だって。」
土「一人で治ってんじゃねえよ。」
「は?」
土「お前の病気は俺が治してやる。ただ、恋の病とやらは一生かかってろって言ってんだ。」
つまりそれって。
好きでいていいってこと?
じゃあ先生は。
「ねえ、先生。」
土「あ?」
相変わらず私は先生の腕の中だけど。
どうしても聞かなきゃいけないことがある。
「先生、私のこと好きですか?」
土「…。」
「特別になれたんですよね?ね、先生?」
土「ああ。」
ゆっくりと解放される体。
先生の顔をちらりと見ると少し目を逸らした。
照れてる?
「先生、胸が苦しい。」
土「!?どの辺だ?痛いのか?」
一瞬で医者の顔に戻る先生も好き。
うん、私どんな顔の先生も好きだ。
怒ってるのも真面目なのも、照れてるのも驚いてるのも。
「ドキドキして、好きすぎて苦しい。」
土「…まぎらわしいこと言うんじゃねえ!」
「あはは。怒った。」
土「はあ…。頼むから心配させんな。」
少しだけ眉尻を下げてため息をつく表情も好きだ。
でももっともっといろんな表情が見たい。
「先生、大好き。」
土「…//」
あ、やっぱり照れてる。
可愛い!!!
土「入院中おとなしくしてたら退院後にどこでも連れていってやる。」
「え!?デート!?!?!?」
土「でけえ声をだすんじゃねえ!」
「先生のほうがうるさいし…。じゃあ美術館行きたい!!!」
土「意外だな。」
「え?そう?」
土「もっと騒がしいところに行きそうだが。」
「どういう意味。」
土「そういう意味だ。まあおとなしくしてろよ。俺はそろそろ戻る。」
「えー。」
せっかく両思いになれたのにもう離れなきゃいけないなんて。
無理無理。全然足りない。
二人の時間が足りない!!!
土「おい、全部口にでてるぞ。」
「ええ!?ちょっと何聞いてるんですか!」
土「…。」
呆れた顔の先生が額を抑えてる。
あれ?頭痛ですか?医者なのにーと言うと冷たく睨まれた。
「彼女にする目じゃない…。」
土「だったら彼女らしい行動しろ。」
先生は椅子から立ち上がってそう言った。
そのまま部屋を出ていってしまうと思ったのに、何を思っているのか動かない。
「先生?」
ふわりと風がふいた。
と、同時に額にやわらかい感触。
「また後で見に来てやるからおとなしく寝てろ名前。」
これまた見たこともないような微笑みを残して先生は部屋を出ていった。
「…おとなしく寝てるなんて…無理!」
だって今…キスされた!!!
名前も呼ばれた!!!!!!
布団の中でバタバタ騒いでたら通りがかった雪村さんが血相変えて飛んできたのはその五分後。
そして先生が雪村さんと話していたのは細かく私の様子をチェックする為だったと彼女から聞いてさらに悶え暴れた私に先生の怒声がふってくるのはさらにその三十分後だった。
終