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千「名字さん、夕食の時間ですよ。…名字さん?名字さん?」


 「え?」


雪村さんの声に我に返る。
窓を見ればすっかり暗くなっていて、どうやら私はベッドに座り込んだまま二時間以上過ごしていたらしい。



千「大丈夫??」


 「…。」


可愛い人だよね。
いつも一生懸命で。
優しくて。
気遣えて。
完璧だ。
先生にぴったりだ。




 「…いらない。」


千「え?」



 「夕飯いらないです。下げてください。」



千「どこか悪いの?」



どこも悪くないよ。
でもごめんなさい。
これ以上一緒にいたら八つ当たりすることが確実だ。



 「大丈夫。お菓子食べすぎちゃって…お願いですから、下げてください。」



千「わかった。どこか調子悪かったらすぐに教えてね?」


 「うん。」


そう言って雪村さんは食事を下げてくれた。



 「…八つ当たりしなかっただけ成長したよね。」



そう言って私は布団にもぐりこんだ。


まだあの二人が付き合ってると決まったわけでもないのに。
何でこんなに沈んでんだろう。
さっき聞いちゃえばよかったのかな?
土方先生と付き合ってるんですかって。



でも。
聞いて本当にそうだったら。
私、立ち直れる気がしないよ。



――ガラッ



病室のドアが開く音がした。
布団の中にいるから誰だかわからない。
でも誰でもいいや。
寝てるふりしよう。




土「おい。」




寝てるふりできそうにない。





 「…はい。」




布団の中から返事をする。
姿を見なくてももう声で誰だかわかるぐらいになっちゃったんだ。



それぐらい好きになっちゃったんだ。




土「どこか悪いのか?」



 「いえ。」



土「飯はどうした。」



 「お腹がすいてません。」



土「すいてなくても食え。」



 「無理。…先生何か用?」



諦めて布団から顔を出した。
すると不機嫌そうな土方先生が立っている。
ほら。
やっぱりその顔しか知らないよ。



土「熱でもあるのか?」



先生の手が額に触れた。
冷たくて気持ちいい。


土「熱はねえな。」


 「ないよ。どこも悪くないから大丈夫だよ。だから出てってください。」


土「おい、本当にどうかしたのか?」


 「何で?」


土「何でって…。」


そりゃそうか。
いつも必要以上につきまとう私がいきなりこんなんだから。


 「恋の病はもう治ったよ。ただそれだけだよ。」


絞り出すようにそれだけ告げると再び布団をかぶる。
だって泣いちゃいそうなんだもん。

そんなすぐに好きでいることを忘れられたら。
そんなすぐに諦めることができるぐらいなら。


こんなに胸が苦しいはずがない。

   

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