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沖田君との放課後勉強会は静かに行われた。



そもそも沖田君がわからなくなることなんてほとんどなくて時々教えてあげるぐらい。

課題と予習をするだけで、それが終わると何か飲みながら少し話して帰る。


そんな日が一週間過ぎた。



 「一週間過ぎたね。」


沖「土方先生も驚いてたよ。僕が予習までしてくるもんだから。」


 「今までしてなかったの?」


沖「予習どころか課題もまともにしてないよ。」


ケラケラ笑う沖田君に頭を抱える土方先生が見える。


最初の予定では一週間って言われてたんだけど。どうすればいいんだろう?


沖「でね、もう少しだけみてもらえって土方先生は言うんだけど。無理強いしたくないし。名前ちゃんはもうやめたい?」


やめたいかと言われると別にそこまで嫌じゃない。
だって課題解いたり予習するのは家に帰ったってしなくちゃいけないんだから。
学校でやって帰るほうが楽だ。邪魔するものもないしね。



 「ううん。学校で勉強するほうがやりやすいし。私でよければいいよ。」




沖「そう、良かった。」



じゃあ、はいと沖田君がカバンから出してきたのは缶コーヒーとお菓子。



沖「今買ってきたんだ。これからもよろしくね。」



 「ありがとう。」



律儀なんだななんて差し出された缶コーヒーに思う。
毎日放課後一緒にいるようになって。
沖田君のことが少しだけわかって。
なんとなく嬉しかった。




意外と勉強が嫌いじゃない。
意外と真面目なところもある。
意外と気をつかってくれる。




そう。
意外な事ばかりだ。


そもそも私が勝手に悪いイメージ持ってたんだろうね。
なんか軽そうとか。不真面目そうとか。
女慣れしてそうとか。



申し訳なかったな。



そんなことを考えて私は教科書を広げた。


















しばらくして課題と予習が終わるとノートを閉じる。
沖田君も終わったようでカバンに教科書をしまうとお菓子に手を伸ばした。



沖「そういえば名前ちゃんは苦手な物ないの?」


 「苦手?」


ポッキーを加えながら沖田君は私を見つめる。
パキッと音を立ててポッキーが沖田君の口の中へ消えていった。


沖「教えてもらってばかりだから、何か教えられることはないかなって思ったんだよね。」


 「苦手か…。」



しいて言えば絵とかは苦手だけど、沖田君も同じぐらいのレベルだった気がするし。
体育はまあ平均的だからな。別にこれ以上望んでない。



沖「名前ちゃん、好きな人いるの?」


 「は???」



いきなりの質問に手に取ったポッキーが机に落ちて割れた。



沖「男女問わず友達は多そうだけど、いつもどちらかといえば淡々と話してる感じがしたから。好きな子にもそんな感じなのかなと思って。」


割れたポッキーを拾って口に入れた。

好きな人か。

考えたこともなかったな。


 「好きな人なんていないよ。」


沖「そうなの?勿体ない。」


 「いたことないもん。好きな人。」


沖「え?そうなの?」


 「どういうのが好きかわからない。だって、誰も教えてくれないじゃない。」



夕焼けのオレンジが部屋にさしこんで沖田君の茶色い髪をより明るく見せる。
綺麗な翡翠の目と視線がぶつかって。

初めて一緒に勉強をした日を思い出した。
あの時は笑ってくれた沖田君を無視してしまったけれど。

今は逸らしたくないな。



 「沖田君は好きな人いないの?」


沖「いるよ。」


 「そうなんだ。」



いるんだ。
どんな人なんだろう。
どんな気持ちになるんだろう。



わからないし想像もできない。



だけど同時に胸の奥に何か痛みが走る。
なんだろう?
もどかしくて、痛くて、苦しくて。


これって何?

   

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