先生のとなり | ナノ
 気になるお年頃


世間が浮かれるゴールデンウィークも受験生にとっては勉強時間でしかなかった。
家か、友達の家か、図書館か。
私は毎日そのどこかに行ってひたすらに勉強をしていた。
一日ぐらい気晴らしが必要とか言って沖田君に無理やり剣道部のみんなとの遊びにかりだされたぐらいで他は穏やかな日々だった。

そして、休みも終わり。
また学校が始まる…。

私にとって、一番嫌いな行事がやってきたのだった。


「沙織ちゃん、次バレーの試合でしょ?がんばってね。」

「…嫌味?」

「何のこと?普通に応援してるのになあ。」


沖田君がニコニコ、いや、ニヤニヤしながら私に心のこもっていないエールを送ってきた。
今日は学校の球技大会だった。
バスケ、バレー、テニス、サッカー…色々な種目があるけれど、どれか一つには参加しなくてはいけない。
だけど私、運動が大の苦手。テニスやバスケなんて人数の少ないものは参加した途端、負けが見えるので比較的人数もいるバレーに嫌々参加したんだけど。
ずっと補欠でいたいのに一度は試合に出ないといけない。
みんな私が苦手なの知っているからフォローしてくれるんだけど本当に申し訳ない。


「さ、行こう。沙織。」

「うん…。」


クラスメートに導かれ、私はため息をついてコートへと向かった。
試合が始まり、私は必死に目でボールを追った。


「うわっ!」


ほぼ悲鳴に近いんだけど、声をあげつつ、そしてギリギリレシーブをして何とか味方にボールを繋げる。
よっぽど強いボールが来ない限り、ボールを受けるぐらいはできるから後はもう友人に任せるしかないんだ。


しばらくラリーが続き、向こうがアタックを打ってくる。


「沙織!!」

「え?」


相手がフェイントをしかけてきたのか、思っていたところにボールは撃ち落とされず。
…私に飛んできた。


「いたっ!!!」


油断していたのもあってちゃんと受け止められず、私は変にボールを受けてしまったらしい。
ホイッスルの音が響き、補欠にいた友達と交代する。
よく見ると指が真っ赤に腫れていた。突き指かな…痛い。


「大丈夫?」


覗きこむように沖田君が声をかけてきた。
彼はバスケに参加しているけれど今は試合がなくてバレーの応援に来ていたらしい。


「あーいたそ。突き指だね。保健室行かなきゃ。」

「そうだね。行ってくる。」

「ちょっと待って。僕も行くよ。」

「え?いいよ、一人で行けるから。」

「いいからいいから。暇だし。」


そう言うと沖田君は私の腕をひいて保健室へと向かった。


校内は人がほとんどいないのか、静まり返っている。
そりゃそうだ。だいたいが体育館かグラウンドにいるんだから。


「それにしても、油断してたでしょ。沙織ちゃん。」

「見てたの?」

「うん。だって心配なんだもん。沙織ちゃん一人だけオロオロしてるからさ。」

「苦手なの…運動。」

「勉強は得意なのにね。まあ神様は平等に作ってるんだよ。」


運動ができて、勉強もほどほどにこなして、顔も良い人が何か言ったよ。
神様が頑張りすぎた結果みたいな人が何か言ったよ。


「利き手じゃなくて良かったね。ペン持てないと困るでしょ。」

「確かに。」

「沙織ちゃんってさ。彼氏いないの?」

「…は?」


さっきまでの流れはどこにいったのか。
あまりにも突飛な質問に間の抜けた声をあげてしまった。


「あんまりそういう気配ないよねー。」

「…まあ。」

「好きな人いないの?」

「いないけど。」

「へえー。珍しいね。」


珍しいの?考えたこともなかったけど。
好きな人って作るもんでもないだろうしさ。


「今は受験に集中したいし。そういうのは後でいいかなって。」

お決まりのセリフを彼に投げると一瞬だけ目を丸くして、だけどすぐにふっと笑った。

「頭で止められるものじゃないんじゃない?恋って。」

沖田君が言うのと同時に保健室につき、彼はノックをして部屋に入って行った。

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