先生のとなり | ナノ
 帰り道の危険

最近この辺変質者が多いらしいから気をつけなさいよとお姉ちゃんが言っていたのはいつのことだったか。
やっぱり四月も終わりに近づき、あたたかくなると変な人とは増えるものだ。


「…。」

「…。」


現在進行形で変質者に出くわした場合どうすればいいんだろう。
いわゆる露出狂と言われるであろう男が目の前にいるんだけど、こういう時って声がでないものだなんて冷静に判断している自分がいる。
ナイフを持っているわけでもなく抱きつかれたりしているわけでもないせいか恐怖は感じてないんだけど、どう対応していいか困る。

「こんにちは。」


挨拶されたんですけど。
どんな犯罪者ですか。こういう人達はこっちが困ったり焦ったりする反応が楽しいと聞いたことがある。だとしたら無反応の私は全く楽しくないということになるんだけど、そのせいで挨拶してきたの?


「あの…。」


今度は一歩ずつ近づいてくる。
これはさすがに恐怖を感じ、思わず持っているカバンを握りしめた。
まだ辺りは暗くないとはいえ人がいない。声は相変わらずでないし、だとしたら…。

少しずつ近づいてくる男の人の急所を蹴る勇気もない私は。

『人の急所は大抵体の中心にある。鳩尾とか顎とかとりあえず思い切り狙って逃げなよ。』

という弟の言葉を信じ。


「!!!」


おそらく油断しまくっていたであろう目の前の男の顎めがけて思い切りカバンを振り回した。手に伝わる鈍い衝撃の後、男の人が後ろへ思い切り尻もちをついたのを確認し、鳩尾めがけて一発蹴りを入れた。こういう時は躊躇っちゃだめだよ、沙織姉ちゃん。と笑っている隼人の姿が目に浮かぶ。本当に大丈夫なんでしょうね…過剰防衛って言われませんように。


うめきながら倒れている男を確認し、私は回れ右をすると一番近くの交番めがけて走りだした。追いつかれたら何されるかわからない。そう思うと人生で一番速く走れた気がした。



「うん、今その男は無事捕まえたから。よく頑張ったな、お嬢さん。」

「はい…。」


五十代ぐらいの警察官がにこりと笑って電話を置いた。
目の前にはあたたかいお茶とお菓子。私の心が落ち着くよう彼が出してくれたものだった。
息を切らせて走り込んできた私にその人は最初驚いていたけれど、変質者がと伝えると隣に座っていた若い警察官にすぐに向かうよう伝えた。
きっと今の電話はその人からだろう。無事捕まえてくれたらしい。


「特に何かされたわけじゃないんですけど…驚いて蹴ってしまいました。」

「何を言ってるんだ。怖かっただろう?そんなの正当防衛だよ。無事で良かった。」


私と同じぐらいの娘さんがいるらしく心底心配してくれたらしい。
無事でよかったと何度も言っていた。


「さて、親御さんに連絡しないとね。連絡先教えてくれるかい?」

「はい。」

痴漢?未遂とはいえ事件だもんね。私は彼にお母さんの連絡先を伝えた。
すぐに電話をかけると話し始める。病院だから繋がることは繋がるんだろうけど…手術とか入っていたらお母さんは出られない。

「はい…はい。では折り返し電話をいただけますか?」

どうやらお母さんはすぐに電話に出られる状況じゃなかったようだ。
仕方ないけどね。

「困ったな。迎えに来てもらえるよう頼もうと思っていたんだが…。あ、それからその制服は薄桜高校かな?先生にも連絡させてもらうね。」

そう言うと彼は電話帳で番号を調べて電話をかけはじめた。
う…何か私が悪いことをしているわけじゃないけど警察から学校に電話ってなんだかな。


「はい…はいそうです。実は…。」


私が被害にあったことを簡潔に説明している。
そういえば誰に言ってるんだろう?近藤先生?
それとも…土方先生?


「ええ、あ、そうなんですよ。どうやらお仕事で…。はい。はい。あ、そうですか?助かります。」

「??」


電話を切ると彼はにこりと笑って驚くべきことを告げた。

「今、先生が迎えに来てくれるから。良かった良かった。一人で帰すのは忍びないし怖いだろう?もう少し待っててね。」


…。
どの先生ですか…おまわりさん。

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