先生のとなり | ナノ
 未来は私の勝手です

「…呼び出された。」

「沙織ちゃんでも呼びだされることなんてあるんだー。」

一日の授業が終わり、帰り支度をしている時のこと。

『おい、香坂。放課後職員室に来い。総司、お前もだ。』

突然の呼び出しに何も言えずにいると隣の席の沖田君がはーいと間の抜けた返事をし、私の返事は聞かないまま、土方先生は教室を出ていってしまった。
数秒後の私の呟きに沖田君が笑いながら立ち上がる。

「ほら、支度したら行こう。早く行かないとうるさいから、あの人。」

担任の先生をあの人呼ばわりできるのはきっと彼ぐらいだろう。
高校に入学する前から付き合いがあるみたいだけどそれにしてもすごい度胸だと思う。
一年生の時に同じクラスで三年生になってまた同じクラスになった。
入学式の出来事を彼に話したことがあったんだけど

『僕なら喫煙シーンをばっちり写真におさめて色々と使うのに。沙織ちゃんは詰めが甘いな〜。』

とか恐ろしいことをさらっと言っていた。
良かったですね、土方先生。見たのが私でと心の中で思う。


「それにしても何で…春休みの課題もちゃんと出したし、何か言われるようなことないのに。」

「さあ?僕は課題だしてないからだろうけど。」

どうして先生に呼ばれてニコニコしていられるのかは謎だ。
沖田君みたいにはどうがんばってもなれない、というかなろうと思わない。


どんなに悩んでも呼び出された理由が思いつかなかった。
課題はきちんと提出した。新学期最初の実力テストもそれなりにできていたと思うし、そもそもまだ全て採点されていないだろう。だってテストが終わったのは昨日だ。
だとしたら…何?

まさか、お隣さんになったことが関係している…とか。


先生がお隣さんとわかったあの日。
私の姿を見た先生はとにかく驚いていた。
そりゃそうだ。自分の担当するクラスの生徒が家の前にいたら驚くだろう。
でもすぐに隣に住んでいると気付いたのか、先生は一つ小さなため息をつきよろしくなと言ってくれた。
実は土方先生、引っ越しをしようと思っていたら物件がダブルブッキングされていたらしくしばらく校長でもある近藤先生のところに居候していたらしい。
だけど近藤先生のところに長くいるわけにもいかないということでとりあえず空いていたうちの隣に引っ越してきたようだ。

そして…。

『俺が隣ってことは誰にも言うな。特に総司には言うな。』

『え?沖田君ですか?』

『あいつに知られたら面倒なんだよ。』


それだけを私に言うと先生はそのままどこかへ出かけてしまったんだけど。
私ちゃんと守ってる。沖田君には一言も言っていないけど…どこかでばれた!?


「沙織ちゃん。どうしたの?青い顔して。」

「え?あ、いや。何でも…。」

「変なの。ほら、入るよ。失礼しまーす。」

いつの間にか職員室の前まで来ていたらしい。沖田君が勢いよく扉を開けて入って行った。私もそれに続く。
中に入るとすぐに土方先生の席へと向かう。


「土方せーんせ。何の用ですか?」

「総司。てめえわかって聞いてんだろ。課題だ!か・だ・い!!!」

「あはは。玄関に置いてきちゃいました。」

「んな嘘誰が信じるか!どうせ言ったってやらねえだろうからな、お前このプリント終わるまで帰るんじゃねえ!」


そう言うと先生は沖田君にプリントを見せる。
え〜と不満たらたらな返事をして眉をしかめる沖田君に問答無用とばかり大量のプリントを押し付けた。

「さっさとやってこい。後で教室に行くから帰るんじゃねえぞ。」

「はいはい。」

諦めたのか沖田君はプリントをトントンと土方先生の机の上で整えると私に頑張ってねと一言残して去って行った。
何を…頑張れと?


「先生。私課題出したんですけど。何で呼び出しを…。」

「あ?ああ、お前は別にそれで呼んだわけじゃねえよ。これだこれ。」

そう言って先生が私に差し出したのは進路志望のプリントだった。新学期当日に提出したもので別にもれている個所はない。


「…それが?」

「お前、第一希望:国立文系、第二希望:国立理系、第三希望:公立…国公立ならどこでもって何だこりゃ。」

「何だって…そのままですけど。」

「お前もう三年だろ。普通は○○大の何学部みたいに書くだろうが。もう少し細かく書け。」

「細かくと言われても…国公立ならどこでもいいんです。」

「どこでもってなあ。」


先生は困ったように頭をかいた。
でも本当のことだもん。お金がかからなくてさらに欲を言えば家から通える大学ならいい。お母さんの負担増やしたくないし、でも今のご時世、私みたいに普通科を卒業した高校生を雇ってくれるところも少ないのだ。だとしたら国公立狙って奨学金かりて卒業するしかない。


「…ということで、あ、さらに言えば何か資格を取ろうと思っているので職に就きやすい資格を探して学部を選ぼうと思ってます。」


私の考えを何も言わずに聞いていた先生はため息をついてプリントを置いた。

「俺が聞いているのはそういうことじゃねえ。お前が何をやりたくてどの大学を選ぼうとしているのかって聞いてんだ。やりたいことがすぐに見つからないにしても何か興味のある分野に進んでほしい。金がかからねえから国公立って考え方はどうかと思うぜ。」

「どうかと思うって言われても…。」

「お前、親御さんとちゃんと話しあったか?それで出した答えか?」

正直お母さんには何も言っていない。
お母さんは好きな大学に進みなさいって言っていたけど…実際特に何か夢があるわけでもないし、だとしたら無駄にお金は使えない。


「…別にいいじゃないですか。」

「は?」

「私、ちゃんと学校通って、勉強して、課題も出してるしテストもそれなりに頑張ってます。何か校則違反するわけでもないし、問題行動するわけでもない。進路だって…悪いこと書いてないと思います。細かく書けって言うなら調べて書きなおします。」

「そうじゃなくてだな、俺は何のために進学するのかって話をしてんだよ。就職したいなら一緒に探してやる。そうじゃなくてなんとなく大学に行くとしたらそれこそ親御さんに申し訳ねえだろ。無駄金払わせることになんだよ。」

「それは…。」

「まだ時間あんだ。ゆっくり話しあって来い。」

はいの二文字しか返すことができなくて。
私はそのまま職員室を静かに後にした。

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