先生のとなり | ナノ
 卒業します

あのバレンタインから二週間後。
私は国立大の試験を受けた。
結果は卒業してからわかる。

もう後は…待つしかない。


「ねえ沙織ちゃん。知ってる?」

「ん?」


隣の席の沖田君がポッキーを食べながら本を読んでいた。
彼は本命の私立大が受かり後は卒業だけということでもう勉強するつもりはないらしい。
授業も自習だから大人しくしてれば怒られることはないけれどポッキーはまずくない?
ちらりと前を見ると永倉先生が船を漕いでいたから大丈夫かとため息をつく。



「土方先生引っ越すらしくて。」

「え?」

「まあ今の家も知らないけど。それのせいか最近帰るの早いんだよね。僕としては卒業まであと数日しかないし、からかう相手がいないと暇を潰せなくて困るんだけど。」


先生が…引っ越す?
そんなの聞いてない。
卒業式まであと五日。いつ引っ越すかわからないけれど…。


先生が隣から引っ越してしまったら。
私と先生を繋ぐものは何もなくなってしまう。


(何もなくなるって…馬鹿だな私。)


そもそももとから何もないのだ。
ただの教師と生徒。
引っ越す連絡もない、そんな関係じゃないか。


「僕も春からは一人暮らしだけど…沙織ちゃんは実家から通うんだっけ?」

「え?あ、うん。」

「たまには遊べたらいいね。僕のうち泊まりにくる?」

「え、沖田君の家?」

「そう、僕の家。」

ニコニコしながら私を見ている沖田君の後ろ。
廊下側の窓に人影。


「沖田君…後ろ。」

「え?」


そこには眉間に深い深い皺を刻んだ土方先生が立っていた。
どうやら沖田君がポッキーを食べていること、永倉先生が寝ちゃっていることに怒りが溢れているらしい。


「うわ。噂をすればなんとやら。」

「早くお菓子しまって!!」

「はいはい。」


沖田君が素早くお菓子をカバンに突っ込んだのを確認すると土方先生は頭を抱えつつ「真面目に勉強しろ」と口の動きで伝えてきた。
そしてそのまま去っていく。
きっと永倉先生は後で怒られるんだろうな。


「良かった。乗り込んでくると思ったよ。」

「私も…。」

「まあ卒業式まであと数日だし?忙しいからさっさと戻ったのかもね。」

「うん。」


卒業式。
その日がきたら、会う理由がなくなる。
もちろん合格発表の結果を伝えるつもりでいた。
だけどいつ引っ越してしまうんだろう?
卒業式の次の日は確か土曜日だ。
そこで引っ越されたら…もう直接伝えるタイミングを失ってしまう。
メールで伝えたらそれで終了になっちゃうよね。


(どうしよう。)


伝えなきゃ。
バレンタインでは避けられた気がしたけれど、気のせいかもしれない。
ちゃんと…言わなきゃ。
言わなきゃ。

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