先生のとなり | ナノ
 言葉はお守り

「さむっ…何でこんな寒い日に試験なんて受けるんだろうね。風邪の心配の比較的少ない秋のうちに試験なんて終わらせておくべきじゃない?」


隣で沖田君がマフラーに顔を半分隠して呟いた。
手袋をしていても寒いのかカイロをわしゃわしゃと揉んで握っている。


「確かにね。体調を崩しにくい時にやってほしいよね。」

「でしょ?僕達の地域はまだいいけど大雪の所とかさ、行くだけで疲れるじゃん。不公平極まりない制度だよね、センター試験。」


私達は今、センター試験を受けるため一番近くの大学へ向かっている。
そこが会場になっているのだ。
おそらく試験を受けるであろういろんな高校の生徒も同様に歩いていた。


「どう沙織ちゃん、調子は。」

「うーん。後はもうやるしかないよね。沖田君は?」

「まあ僕は本命は私立だから。センターの結果が良ければそれでも受けるけど…。」

「そっか。でも沖田君はさらりと良い点数とりそうだよね。」

「沙織ちゃんも大丈夫でしょ。地元の国立だっけ?教育学部?」

「うん。」

「何でまた教育学部なのさ。幼稚園児ぐらいならまだ可愛いけど高校教師目指すんでしょ?可愛くないよー。僕みたいの相手にするんだよ。」


自分で言うか、そこ。
でも確かにそれを想像するとげっそりする。


「あはは。でもそんなところも含めて可愛く見えてくるんじゃないかな?」

「物好きだよね。土方先生も言ってたよ。」

「え?」

「あいつは何でわざわざ高校教師なんか…苦労しかねえぞって。僕の補習見ながらね。」

「いいの。決めたんだから。」

「まあ応援するよ。」

「ありがとう。」


先生とはクリスマスのお出かけ以来じっくり話せていなかった。
すぐに冬休みに入り、私は冬期講習。先生の授業も受けたけれどセンター対策もあったしいつもいつも先生の所にいくわけにいかない。
学校が始まって何日かしたらもう今日がきてしまった。


でも。



――お前なら大丈夫だ。自信を持てよ。


そう言って先生はクリスマスプレゼントにお守りをくれた。
学業成就。
まさか何か貰えるなんて思っていなかったし、本当に私のことをちゃんと考えてくれてるんだなって思うと涙が出そうなぐらい嬉しくて。
私は絶対に受かるって心に決めたんだ。


「どうしたの?何だかにやけてるけど…余裕?」

「え!?そ…そんなことは。」

「ふーん。ねえ沙織ちゃん。」

「?」

「土方先生と何かあった?」

「ええ?!」

「あれ、本当に何かあったの?冗談だったんだけど…。」


しまった。過剰反応し過ぎた。
かまかけられただけだったのか…。


「試験が終わったらゆっくり話を聞かせてもらおうかなあ。明日終わったらご飯でも食べに行こうね。」

「いや、その、何もないです。沖田君。」

「あ、噂をすれば土方先生。」


沖田君の視線の先。
大学の門のところに立っている土方先生が見えた。
永倉先生も立っている。どうやら生徒を見に来たらしい。


「おはようございます。」

「お、おはよう!沙織ちゃん。沙織ちゃんは心配ねえな!ちゃんと朝飯食ったか?それだけできりゃ何とかなるぞ。」

「新八さん、相変わらずだね。」

「総司も飯食ったか?頭働かねえぞ。」


沖田君が永倉先生と話始めたのを確認し、私は土方先生を見た。


「おはよう。」

「おはようございます。」

「もう後は受けるだけだ。力出し切ってこい。」

「はい。」


後から来る他の生徒も先生達と一言何か話したいのか待っている雰囲気だった。
私と沖田君は会釈をして会場に進んでいく。


「えーっと、僕は…ラッキー。後ろの席。」

「私真ん中だ。」

「じゃあまた休み時間に。お昼も一緒に食べようね。」

「うん。頑張ろうね。」


沖田君と離れ、私は席に着いた。
試験開始までまだ時間があるせいかみんな最後の確認をしている。
私も参考書を取り出し少しでも多くの知識を詰め込もうとした時だった。


(あ、携帯の電源…。)


電源を切ろうと携帯を取り出す…と、メール受診のランプが点灯していた。
お母さん?お姉ちゃん?隼人?
そう考えながら開くと…。



――頑張れよ。


一言。
ぶっきらぼうなメールは先生以外ありえない。
何でだろう、たった一言なのにこんなに心が落ち着くなんて。


――頑張ります!


そう返事をして携帯の電源を切った。


言葉はお守り


先生に貰ったお守りも嬉しいけど。
言葉はそれ以上に私に力をくれるみたいだ。


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