先生のとなり | ナノ
 大人の階段

「…落ちた。」

推薦入試の結果をパソコンから確認する。
私の番号はなかった。
もちろん、これからセンター試験もあるしこれで終わりじゃないからいいんだけど…やっぱりショックかな。


とりあえず何か飲もうと自分の部屋からキッチンへ向かう。
お湯を沸かしてぼーっとしているとカレンダーが目に入った。


「来週はクリスマスか…。」


受験生には無縁なその五文字。
とはいえなんとなく気になってしまうもので。


「先生って…彼女いるのかな。」


勉強に集中しなくちゃいけないのにこれだもん。自分で自分が嫌になる。
しかも推薦が落ちたというのに…だ。


「面接の練習付き合ってもらったのに…申し訳なかったな。」


そうだ。久しぶりにおかずのおすそ分けしようかな…。
ついでに報告しよう。
飲み物作りを中断して私は食事の準備を始めた。


最近はお姉ちゃんが家事をけっこう代わってくれていたから料理をするのは久しぶりな気がする。
洋食が多かったから和食にしよう。
煮魚と青菜のお浸し、お味噌汁ときんぴらでいいかな。


先生に持っていくとなると気合いが入っていることに気付いた。
そして料理がいつも以上に楽しいことにも。
美味しいって思ってもらいたいな。


私はおかずだけタッパーに入れて先生の携帯にメールをいれた。


――先生、今家にいますか?


休みの日にメールするなんて迷惑だったかな?
送ってから思ったけど時すでに遅し。
そして思いのほか早い返事にびくりとしてしまった。


――ああ、どうした?

――ちょっとお伺いしたいのですが。

――いつでもいいぞ。


先生の返事を確認し、私はタッパーを持つと家を出た。


チャイムを鳴らすと先生はすぐに出てきてくれた。
私服姿を見るのは初めてじゃないのに好きだと気付いてしまうとドキドキしてしまう。


「あの…。」

「寒いだろ、中入れ。」

「あ、はい。」


先生の後をついていくように部屋に入る。
ソファに案内されて思わずちょこんと小さく座った。


家の間取りは一緒なのに全然違う部屋に見えるから不思議だなあ。


「どうした?」

「あ、ありがとうございます。」


先生にコーヒーをもらい私はやっと両手にタッパーを持っていたことを思い出した。


「先生…私、推薦だめでした。」

「…そうか。」

いきなりだったから驚いたかな?
だけど先生は変に励ますでもなくただ聞いてくれるみたいだ。


「面接の練習もしていただいたのに…。」

「気にするな。それが俺の仕事だ。国立の推薦は難しいからな。だけどお前なら一般入試で十分通じるだろ。」

「がんばります。で…これ。」


すすっとテーブルにタッパーを並べた。
先生は何だ?と手に取り中身を見ていた。


「先生にはたくさんお世話になったから。久しぶりにおすそ分け。」

「お前そんな暇あったらなあ…。」

「きっ気分転換なの!!」

「…ありがとな。」


ああ、もう。そんな風に笑わないでよ。
ドキドキしちゃうから。


「コーヒーいただきます。」

「おう。…それにしても気分転換か。」

「??」

「確かに大事だな。気分転換は。いつもいつも勉強してたって集中できねえだろ。」

「まあ。」

「お前…来週の土曜空いてるか?」

「へ?土曜日?空いてますけど。」


センター試験も近いっていうのにそうそう遊びに行く計画なんて入れませんよ。


「よし、気分転換しようぜ。」

「え?」

「推薦がんばったもんな。センター試験の前の息抜きだ息抜き。…他の奴らには言うなよ。」


つまりそれはその…。
先生とどこかへ行くってこと?気分転換って何?
それより何より先生、来週の土曜日って…。


クリスマスイブですよ!!!

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