先生のとなり | ナノ
 察しろって無理な話

「はあ…。」


今日は少し遅くなった。
家のドアを開けて中に入る。電気をつけてカバンをソファに投げ捨て、冷蔵庫を開ける。

「ちっ…ろくなもん入ってねえな。」

そういや前に買い物に行ったのはいつだ?
最近忙しくてどこに寄ることもなく家に帰っていた。
かろうじて残っているのは沢庵、梅干し。
米は冷凍したのがあるが…まあいい。飯はあとだ。
お茶のペットボトルを掴んでリビングに戻りソファに座りこんでテレビをつけた。

「何もやってねえな。」

適当にチャンネルを回してテレビを消した。
無音にしていると隣から笑い声が響いてくる。


「あいつの姉貴と弟だな。」


時々楽しそうな声が聞こえることは今までにもよくあった。
今日はどうやら人がいるんだなと安心する。
静かな時はあいつが一人でいるんじゃねえかと思っちまうからだ。


「あいつもちゃんと笑ってんのか。」


もうすぐあいつの推薦入試がある。成績も生活態度も申し分ないから推薦を受けさせたんだが私立じゃねえから確実に受かるわけじゃない。
それでもチャンスは多い方がいいとあいつも張り切っていた。
勉強、面接練習に小論文対策。推薦を受けるということはそれだけやることも増えてしまう。最近あいつは少し疲れた顔をしていた。家にいる時ぐらい笑ってるといいんだが…。


「って余計なお世話だな。」


お茶を一口飲み、テーブルに置いた。
生徒一人一人大切で気にかけているがどうもあいつには過保護になっている気がする。
最初は親が仕事で家にいないことが多い…という理由でよく見ていたが最近はそれだけじゃねえのではと自分で考えるようになってしまった。


それもこれも。


「あいつのせいだ。…原田。」


職員室でいきなり原田に指摘された。


――最近土方さんいいことあったのか?眉間の皺が減ったよな。


そんな一言が始まりだった。
気のせいだ。受験生受け持っててストレスは増加の一方だと答える。
総司もいるしな。あいつの場合成績じゃなくて生活態度に問題があるんだが。


――でもあんた最近穏やかだぜ。女でもできたか?


ニヤニヤ聞いてくる顔に一発殴ってやろうかと思った。
だが、そう言われた時頭をよぎったのは…香坂だった。


――あれ?もしかしてマジ?良かったな。プライベートも大事だぜ?


ははははと楽しそうに笑いながら職員室を出ていってしまったから殴るタイミングも失い、俺はただ呆然と座るしかできなかった。
何で俺は…香坂のことを思い出したのか。それだけが気になって仕方なかったからだ。


あいつはしっかりしていて周りを見ていて気遣えて。
ただそれはつまり何もかも一人で背負い、周りへの頼り方を知らないってだけだった。
少しずつ俺に心を開いていくのはわかった。そして俺もそれに満足していた。
自分の生徒を心配するのは当たり前だと思っていた。
だが…もしかしたら違うのか?俺は…あいつを…。


――ピンポーン


玄関のチャイムの音が現実に引き戻す。
こんな時間に誰だと思いつつ俺は玄関へと向かった。

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