先生のとなり | ナノ
 甘くないバレンタイン

「作ってしまった…。」


バレンタイン当日。
どうしようどうしようとモヤモヤ考えつつ、一応作ってしまった自分がにくい。
今までバレンタインなんてたいして考えたことなかったくせに。


先生だけっていうのもあれかなと思い沖田君の分も用意はしたけどいつ渡そうかな?
やっぱり放課後かなと思い、私はクッキーをカバンにしまったまま一日の授業を受けた。


「沙織ちゃん、結局作らなかったの?」


放課後、沖田君に声をかけられる。
ほとんどの生徒が帰ってしまった教室は少し寒くて、私も早く帰ろうとしていた。
早く沖田君に渡さなきゃって思っていたんだよね。
彼は朝からずーーーーーっと色々な子にチョコレートを貰っていたようだ。
大きな紙袋にたくさん綺麗なラッピングに包まれたものが入っているし休み時間に適当に取り出して食べていたのも見ている。
あんなに食べて肌荒れとかしないのかな。


「作ったよ。はいどうぞ。」

「え?僕にもくれるの?やったー。」


そう言って包みを渡すと彼は目の前で開け始める。


「え?今食べるの?」

「うん。沙織ちゃんのお菓子って何か美味しそう。」

「普通だから!甘さ控えめだし。」

「それがいいんだよ。朝からずっと甘いの食べてるし…あ、クッキーだ。」


いただきまーすなんて言ってぱくり。
目の前で食べられるとものすごく緊張するんだけど…。


「美味しい!アーモンドとか入ってる?甘くなくても美味しいよ。やっぱり沙織ちゃん料理上手なんだね。」

「良かった…。」

「土方先生にもあげるの?」

「え?」

「だって甘さ控えめのもの作ってるし。」

「お世話になってるから…でも受け取ってもらえるかわかんないけどね。」

「うーん…。」


二枚目に手をつけている沖田君が少し考えるように唸る。


「受け取るかもね…。」

「え?」


彼の小さい呟きが聞こえなくてもう一度聞こうとすると教室のドアが開いた。


「残ってたか。」

「あ、土方先生。」

「先生、どうかしました?」

「いや、職員室にいるとちょっと面倒でな。」

「わ、嫌味ですね土方先生。一つも貰えない男子に刺されちゃえばいいですよ。」

「総司…てめえも刺されるだろうが。」


あ、そういうことか。
いろんな女の子が渡しに来るから避難してきたんだ。
とはいえ教室にいても安全とは言えないと思うけれど。


「…。」


先生が沖田君の手元を見ている。
そこには私が渡したクッキーがあった。


「いいでしょ。沙織ちゃんのクッキー美味しいんですよ。」

「そうか。」

「じゃ僕は帰ろうかな。また明日ね沙織ちゃん。」

「あ、うん。」


気をきかせてくれたのか、沖田君はカバンを掴むとクッキーを食べながら教室を出ていってしまった。
残されたのは私と先生だけ。


「…あの。」

「総司にやったのか。」

「え?」

「意外だな。お前はあまりこういうイベントに興味がないと思ったが。」


まあ確かに興味はないんだけど。
今年は特別なんだ。
先生…受け取ってくれるのかな。


「先生、あの、お世話になっているので…。」


頑張ってラッピングしたクッキーをカバンから取り出す。


「甘さ控えめにしました。食べれなかったら捨ててしまっていいので…。」


そっと差し出すつもりが勢い余って先生の腕にぶつかってしまう。
冷静を装っているだけで慌てているのが伝わってしまうだろうか。


「俺にか?」

「え?はい。そもそも沖田君はおまけみたいなもので…あ、いえ、彼には強請られたものでつい。」

「…そうか。」


受け取ってもらえない。
そう思っていた包みは静かに先生の手の中に旅立っていった。
すると先生は近くの席に座り、ラッピングを丁寧に開けていく。


「ええ!?ここで食べるんですか?」

「悪いか?」

「いや、悪くないですけど…。」


受け取ってもらえただけで驚きなのについていけないよ。先生。
一口静かに食べると先生はしばらく無言で自分の心音だけがやけに響く。


「うまい。」

「え!?」

「何驚いてんだよ、お前の作るもんは大抵うまいだろうが。」

「いや、その、あまりお菓子とか食べるイメージがなくて…。」

「甘ったるいのは嫌いだ。でもこれはそんなに甘くないからな。」

「良かったー。」


ほっと自然にため息が出る。
先生に美味しいと言ってもらえればそれだけでいい。
私の気持ちがどれだけ伝わったかはわからないけれど今は嬉しさでいっぱいだった。


「試験前にありがとうな。」

「いえ、こちらこそ。いつも勉強見てもらってますし…。」


先生は一度包みを閉じて立ち上がる。
ぽんぽんと頭を叩かれてほわんと胸があったかくなった。


(あ…。どうしよう。)


やっぱり好きだ。
何だか好きって気持ちが一気に溢れてきた。
先生とこうしていられるのはあと一ヶ月もない。

どうしよう。
この気持ち、このままずっとしまっておくのかな。
伝えたところで結果は見えているけれど、それでも…。


「あの、先生。」

「ん?」

「私…その…先生が…。」

「…香坂。」

「はい!?」

「そろそろ暗くなる。早く帰れ。風邪ひかないようにな。また明日。」

「あ、せんせ…。」


私の呼びかけに振り向くこともなく、先生は教室を出ていった。
間違いない。今のは…。


(避けられた?)


私が何かを伝えようとしていたのを先生はわかったはずだ。
うつむいていたから表情は見ていないけれど、先生のことだ、多分私がしようとしたこと気付いていたんじゃないかな。
そして最後まで聞かなかったのは…。


(告白されたら困るから…だよね。)



甘くないバレンタイン



受け止めてもらえないって
こんなにも苦しいことなんだね。

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