▼ 相合傘は無記名で
「せ…せんせえ。」
「まさかお前も総司と一緒にあんなことするとはなあ…。」
「してないしてない!!!沖田君に無理やり連れてこられただけで!!!」
首がとれるんじゃないかってぐらい左右にぶんぶんと振りまくった。
だって先生めちゃくちゃ怒ってる。
何したのよ、沖田君!!!
私の必死の訴えが届いたのか、そもそも私は犯人だと思っていなかったのか、先生はため息をつくと隣に座ってきた。
「あいつどこ行った。」
「特別教室のほうへ。」
「…ちっ。だとしたらもう反対側の階段使って逃げてんな。」
「でしょうね。沖田君何したんですか…。」
「…俺のメモ帳を拡大コピーして職員室中にばらまきやがった。」
「うわ。」
えげつない。やっぱり彼はえげつない。
まあでも沖田君のトリックオアトリートにまともにとりあうわけないもんね、土方先生も。強制トリックになったわけだ。
「それにしても何だこりゃ。壁中落書きだらけじゃねえか。」
「今まで気付かなかったんですか?」
座ったことで視界に入ったのか、先生が相合傘の山を見て眉間に皺をよせた。
先生こういうの苦手そうだもんね。
「ここに相合傘を書いた二人はずっと仲良くいられるっておまじないがあるんですよ。」
「くだらねえな。んなの叶うか。」
言うとは思っていたのに。
なんでちょっぴりむっとしたんだろう。
さっきまで私も似たようなこと思ったのに。
だけどきっと心のどこかで、叶ったらいいのになって思ってたのかな。
「消さないであげてくださいよ。」
「は?」
「叶わなくなっちゃいます。…公共のものに落書きはいけないことだけど。祈るぐらいはしたいんですよ、きっと。」
ここにはたくさんの願いがあるんだ。
ずっと仲良くずっと一緒にいられますようにって。
それを消してほしくなかった。
「…お前もこういうの信じるのか?」
「いえ、どちらかといえば信じないんですけど。」
「珍しく可愛いこと言うと思ったんだがな。」
「…え?」
「おい、トリックオアトリート。」
え?可愛い?今そう言った?
あれ?でもその後トリックオアトリート!?先生が!?
思わず慌ててポケットから飴をとりだした。
「なんだよ、菓子持ってんのか。」
「先生のイタズラ、古典のプリント十枚とか言いそうなんで。」
「つまらねえな。」
「じゃあ先生、トリックオアトリート。」
「菓子もねえし、イタズラも受ける気しねえ。」
「ずるっ!!!」
「できるもんならかかってこいよ。」
そんな風に強気で笑われたらイタズラなんてできるわけがない。沖田君じゃあるまいし。
仕返しが怖い。
「こうやっておまじないとやらに頼るのはあんまり好きじゃねえな。」
ぼそりと呟いた先生。
まあ先生がおまじないなんてしてたらちょっと気持ち悪いけど…。
って思った言葉は口からでていたらしい、先生もそうだろう?と苦笑いしていた。
「こっそり祈るぐらいなら相手に伝えたほうが何百倍も思いが届く確率が高いだろ。だから俺はそういうまじないとかには頼りたくねえ。」
「そんな、伝えられたら苦労しないでしょう。」
「最初から弱気になるなってことだ。特にお前らぐらいの時は。」
「?」
「大人は段々伝えられなくなるんだよ。」
そう言うと先生は立ち上がる。
気がつけばもうすぐ授業が始まる時間だった。
私も一緒に立ちあがり階段を下りていった。
相合傘は無記名で
私、ここに書くのはやめておきますね。
心の中で書いて、祈って、そしていつか…
ってあれ?私やっぱり先生のこと…。
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