先生のとなり | ナノ
 強がってなんかない

「な…永倉先生?」

いつもと雰囲気が違う永倉先生が立っていた。
だってメガネかけてスーツ着てる。一瞬誰だかわからないくらい。


「なんだよ、あんた。」

「俺達今から遊びに…。」

「てめえらうちの生徒に手だすとは覚悟できてんだろうな。」

「は?あんた先生?」

「ごめんな、沙織ちゃん、遅くなった。もう大丈夫だぞ。」


先生はそう言うと私を引きよせて背中側に移動させる。
彼らは一瞬反抗しようとしたみたいだけど永倉先生は体格も良いし、真剣な顔すると実は怖い。剣道も確かものすごく強いって沖田君言ってたな。


「さっさと帰らねえなら相手になるが…どうする?」


楽しそうに手の骨をバッキバキ鳴らす人がいたらだいたいの人は怖くて逃げると思うんですよ、先生。
案の定何かを言いながら彼らは去って行ってしまった。


「せんせ…何で?」

「正義のヒーローはヒロインにピンチがあると登場するもんだぜ!!!…って言いたいとこなんだけどよ。」


笑いながら永倉先生は携帯を取り出す。
誰かに電話をかけているようだ。


「おお。あの大通り…そうそう。いつも俺らが飲んでる店のとこだよ。」


そう言うと先生は私の手をひいて居酒屋さんの前に移動した。


「土方さんがさ。」

「土方先生?」

「沙織ちゃんを送ろうとしたのに帰られた。お前今日コンパあるんだろ、見つけたら途中までで良いから送ってくれって…お願いなんだか命令なんだかわからない口調で言うもんだからさ。」


先生コンパだからスーツなの…。ってそれはどうでもいい。
土方先生、わざわざそんなこと。


「でも沙織ちゃんの帰るルートわからねえし、とりあえず店に向かうまで沙織ちゃん探しながら歩いてたら変な奴らに絡まれてるからさ。」

「ありがとうございました。」

「いいっていいって。かっこよかっただろー?」

「はい!先生すっごくかっこよかった。」

「あー…なのに何で俺には彼女ができねえんだー!?!?」

「きょ…今日現れますよ!きっと!!!」

「そうかなあ?現れるかな!?」

「おい、新八、何生徒に慰めてもらってんだよ。」

「あ…。」


永倉先生を必死に励ましていると後ろからぽんと頭に手が置かれた。
振り向くまでもなく、土方先生。


「あ、土方さん。変な奴らは追っ払ったからよ。俺は戦地へ赴くとするぜ!!!」

「おー。悪かったな。」

「いいってことよ!じゃあな沙織ちゃん。」


そう言って永倉先生はお店に入って行った。
あ、ここだったんですね。今日の戦地は。


「…帰るぞ。」

「え、あ、はい。」

土方先生が歩き出し、私も少し斜め後ろをついて歩く。
しばらくは大通りの喧騒のおかげで無言でも平気だったけれど、いざ大通りを外れると沈黙が気まずくなってきた。


「先生…。あの…。」

「だから送るって言っただろうが。お前はもう少し危機感を持て。」

「でも…先生に迷惑かけたくないし。だから大通り通ったんだけど…。」

「香坂。」

先生は立ち止まって私の方を見た。
あれ、怒ってる?


「迷惑とか言ってんじゃねえぞ、ガキが。」

「…は!?」

「この前変質者に会ったばっかりだろうが。一人で帰るなって言っただろう?!大丈夫ですなんて強がってんじゃねえ!!」

「べ…別に強がってなんか!!明るい道なら大丈夫だし、一人で帰れるなら一人で帰りますよ、もう高校生なんだから!!」

「お前はそうやってなんでもかんでも一人ですませる気か。いつまで我慢していくつもりだ。」

「我慢…?」


私我慢なんてしてない。
一人でできることを一人でして何が悪いの?
だって…みんなそれぞれ忙しいんだよ。なのに私が迷惑かけるわけには…。


「お前の親御さんも前に言っていた。お前は何でも一人でやろうとする。迷惑をかけるのを嫌がるって。」

「それは…。お母さん、仕事してるし。」

「だから俺に頼れって言ってんだろうが。」

「先生だって忙しいじゃないですか。」

「それで我慢してお前に何かあったら、みんなどう思うと思ってんだ。」

「…。」

「今日だって、たまたま新八がお前を見つけたからいい。だけどそうじゃなかったらどうしたんだ。」

「…。」

「お前は頼ることがわからないかもしれない。甘え方も知らねえんだろ。親がだめなら俺が受け止めてやる。逃げもしねえし、拒みもしねえよ。だから、何かあったらちゃんと言ってくれ。」


どうして先生がそんな辛そうなんですか?
自分の生徒が危ない目にあったから?
どうして?


「我慢なんてな、大人になったら嫌ってほどしなきゃいけねえんだよ。仕事みてえなもんだ。子供の仕事は頼ること、甘えること、学ぶことだ。」

「先生…。」


何でそんなに優しくするんですか。
今までだって私、一人で何でもできたのに。
先生がそんなこと言ったら…何もできなくなっちゃいそう。


「…帰るぞ。」

「先生…こ…。」

「こ?」

「怖かった。…こわかっ…。」

大丈夫だと言わんばかりに先生が私の手を握る。
大きくてあったかくて…だけどそのせいで涙腺が緩んだ。


強がってなんかない


って思っていたのは私だけ。
本当は…無理してたんだね。

先生の歩幅がいつもより小さかったせいで。
私の涙腺は崩壊してしまった。

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