先生のとなり | ナノ
 夏の暑さにやられただけだし

「嘘って…何言ってるんですか!?先生のくせに!!」

「お前な、教師だろうとなんだろうと嘘はつくだろうが。」


当然だと言わんばかりの表情。
あれ、私が間違ってるんですか?

「何のために?」

「お前な、総司の言葉聞いてたか。あいつ家まで送るって言ったんだぞ。お前の家に行った時に鉢合わせでもしてみろ。どうなることか…。」

「それだけえ!?」


まあ確かに寄り道して帰ったら何時になるかわからないし、先生も今日は早く帰るのかもしれないけどさ。


「そんなの、言ってくれれば電話かメールしましたよ。この前交換したんだから。そうすれば会うことないのに。」


そう言うと先生は一瞬目を丸くして、その後納得したようにそれもそうだなと呟いた。
相変わらず立ち上がろうとしない先生を見て私も隣の席に座る。


「お前…。」

「はい?」

「総司と付き合ってんのか?」

「ありえません。私は今受験に集中したいんです。」

「だろうな。」

「沖田君のいつもの冗談ですよ。」

「そうか。」


ふうと息を吐いて先生が机に頬杖をついた。
心配してたのかな?相手が沖田君だから?私が受験生なのに勉強に集中しなくなると思ったから?

「お前、がんばってるな。最近成績上がってんだろ。このままなら志望校も大丈夫だろうし。」

「おかげさまで。」

特に古典は力を入れている。担任の担当科目ってこともあるし。

「古典の成績下がったら、わざわざ隣から言いに来そうですもん、先生。」

「あのな。いちいちそんなことで家に行ったりするか。」

「あ、隣なんだし、わからない問題あったら先生に聞きに行こうかな。ご飯貢げばいいですか?」

冗談で言ったら先生は呆れた表情で笑った。

「今度は悲鳴じゃなくて普通に呼んでくれよ。」

「思い出させないでくださいよ。」

思いだしたくもないんですよ、あの姿。
あの気持ち悪いシルエット…。
まだ夏真っ盛りでこれからも出会うんだろうけど。


「今度は叫ぶ前に電話しろ。…んにしても暑いな、ここは。俺は職員室戻るがお前は帰るのか?」

「うーん…図書館行こうかな。」

「そうか。無理すんなよ。わからないところは聞きに来い。」

「はーい。」


お互い立ち上がり教室を出る。
そのまま別れてそれぞれの目的地に行く…と思ったんだけど。


「香坂。」

「はい?…わわっ!」


ぽんっと何かを空中に投げた土方先生。
慌ててキャッチするとそこには銀色の硬貨が一枚。


「先生?」

「なんか冷たいものでも飲んどけ。悪かったな、引きとめて。」


そう言って先生は職員室へと歩いて行ってしまった。
ありがとうございます…って呟き、先生に届いたんだろうか?

私は硬貨を握り締めると図書館へ向かう前に自動販売機へ向かった。
何を飲もうか。
先生からせっかく貰ったんだ。
ゆっくり味わって飲めるものにしよう。



夏の暑さにやられただけだし



先生に優しくされるのが。
嬉しくて、ドキドキするようになってきた。

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