先生のとなり | ナノ
 どうせ可愛くないよ

「ありがとうございました…先生、お茶どうぞ。」

「ああ。」


リビングに先生がいるなんて何だか不思議な光景だ。
私がお茶を差し出すと受け取って一口飲んだ。


「お前な…痴漢には冷静に対処できるのに何であんなもんが…。」

「むむむむ無理ですよ!あんな害虫大丈夫な人いるわけないじゃないですかああ!」


そう。
リビングに突如現れたのは夏になると増えるあの害虫だった。
すばしっこくて恐るべき生命力をもつあいつ。
あいつだけは昔から駄目だった。
いつもはお母さんか隼人が倒してくれるんだけど。こういう時に限って一人なんて。

先生は私から話を聞くとさっさと室内に入り秒殺してくれた。

そして今に至る。


「でもまさか先生が来るとは…。」

「窓全開であんな声出されたら何事かと思うだろ。ましてや教え子のいる家から聞こえてきて無視できるか。」

「ですよね。」

「それにしてもすっげえ声だったな。もう少し控えめに叫べ。」

「ど…どうせ可愛くないですよ!!緊急事態に可愛く叫んでる場合じゃないですし。」

「くくっ…それもそうだな。いや、本当にすげえ叫び声だったからよ。」


先生は思いだしたのか笑い始めるし、私は恥ずかしくていたたまれないし。


「あ、鍋!」

「?」


すっかり火をつけていたことを忘れていたけどカレーは焦げることなく良い感じに煮込まれていた。部屋中が一気にカレーの香りになる。


「先生、カレー食べます?」

「あー…いや、でも…。」

「お礼です!お礼!サラダもつきますよ。まだ夕飯食べてないでしょ?」

「…わかった。じゃあご馳走になるか。本当はあまり生徒の家に入り浸るのはよくないんだけどな。」

「いいじゃないですか。隣だもん。ちょっと待っててくださいね。」

「おい、香坂。」


リビングにいたはずの先生がキッチンの所までやってきた。
どうしたんだろうと思うとおもむろに携帯電話を取り出す。
先生らしいシンプルな黒だった。


「お前に番号教えておく。」

「え?」

「隣になったのも何かの縁だからな。今日みたいに一人なことも多いだろう?何かあったら俺に電話かけろ。おふくろさんすぐには帰ってこれないだろう。」

「でも…。」

「もちろん、いたずらでかけてくんなよ。」

「かけませんよ!!」


先生の表情が優しくて、私は携帯を取り出すと番号を交換してしまった。
でもいいのかな?先生と個人的に番号を交換するとか。
…べ、別にやましいことなんてないし平気か。


「総司には言うなよ。」

「言いませんよ。もうどんだけ仲悪いんですか。」

「あいつがもう少し大人しければ文句ねえんだがな。」


そう言って先生はリビングに戻り、私が準備するカレーを待っていた。
なんだか不思議。
先生とご飯食べるなんて。


どうせ可愛くないよ


美味いなって言ってくれる先生に、

「ルーのおかげですよ。」

しか言えない私は。

本当に可愛くない。

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