▼ 若気の至りで済みますか?
気がつけば梅雨が始まっていた。
今年は雨が多いらしい。毎日毎日じめじめしていて隣の沖田君は不快そうだった。
「あっつー…いっそカラッと晴れてればいいけどさ。雨だと外に出るのも億劫だし本当嫌だよね。」
「そう?私は嫌いじゃないけど。」
「珍しいよね、沙織ちゃんって。」
「雨の音って何だか落ち着くじゃない。」
「ふーん…。」
私は雨の音が嫌いじゃない。
ざーざー台風並みになるとちょっとうるさいかもしれないけどしとしと降っているぐらいなら心地良い。
「あーあ。こんな天気だと帰りにどっか寄るってわけにもいかないしなー。」
「真っすぐ帰れば。中間ちかいけど。」
「えー…沙織ちゃん相変わらず真面目だよね。あ、手は良くなった?」
「おかげさまで。もうほとんど痛くないよ。二週間はたってるしね。」
授業中だというのにこんなに話していても怒られないのは永倉先生がプリントを配って寝てしまったから。
たまーにあるんだけどみんなあえて起こさない。
体育祭で怪我をした私はしばらく片手が使えなくて不便だったけれど今はすっかり良くなった。
あの後しばらくは土方先生も私の怪我を気にしていたらしく休み時間やたまたま休日にばったりマンションで会うと聞いてきたものだ。
(先生ってけっこう心配性なのね。)
突き指なんて運動部の子は友達のようなものだろうに。
だけどなんでだろう。
少しだけ嬉しい自分がいる。
多分…大人に心配されることがあまりなかったからかな?
お母さんは忙しいし、しっかりしなきゃってずっと思ってたから。
周りの人にもしっかりしてて偉いわねしか言われたことなかった。
「あーあ。新八さん全然起きないね。これ土方先生が知ったらめちゃくちゃ怒りそう。」
「やめてあげてよ沖田君。永倉先生も疲れてるんだよきっと。」
「新八さんが疲れるなんて…徹夜で競馬のこと考えてたか女の人にふられたかぐらいだよ。」
ひどい言われようだ、永倉先生。
だけど否定できない、ごめんなさい。
「ま、とりあえず何かの時の為に写メとっておこー。」
「もー。…あ。」
「ん?」
私が廊下をちらっと見ると沖田君も視線を追う。
写メ…必要ないみたい。
そこにはこめかみをぴくぴくさせて永倉先生を見ている土方先生が立っていた。
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