▼ 気になるお年頃
「山南せんせー。…あれ?いない?」
沖田君が保健室に入ると山南先生を呼んだ。
だけど返事はない。
「体育祭だからまわってるのかな…すれ違っちゃったか。」
「うん…でも突き指だし。湿布貼れば大丈夫でしょ。」
「一応診てもらった方が良いよ。骨に何かあったら嫌じゃない。僕探してきてあげるからさ。ここにいて。」
沖田君はそう言うと保健室のドアから出ていこうとする。
思わず私は彼の服を引っ張って止めた。
「いいよ、悪いよ。大丈夫だから。」
「…周りを頼れって土方先生に言われなかった?」
「え?!?」
「先生が珍しく心配してたから。僕がしばらく君の様子を見る役を仰せつかってるんだよね。」
「えええ!?」
「なーんて。そこまで言われてないけど。まあ心配はしてたみたいだからさ。これぐらいたいしたことじゃないしお利口に座ってて。」
沖田君はにっと笑うと私を保健室の椅子にぽんと座らせ、出ていった。
今の感じだと…先生、沖田君に相談してたんだ。
この前の事件のせいかな。
公になってないし、沖田君もどこまで聞いているかわかんないけど。
心配…してくれてるんだ。
――頭で止められるものじゃないんじゃない?恋って。
「え!?」
沖田君の言葉がいきなり頭を占拠する。
何で?何で今その言葉…。
一人で悶々としているとガラッとドアが勢いよく開く音が響いた。
「早かったね…って先生?」
振り向いてそこにいるであろう沖田君と山南先生に言った言葉は全く違う人物へと届いた。
「…大丈夫か?」
「何で?土方先生が??」
「熱中症の生徒がでて山南先生はそっちにつきっきりだ。病院に行くらしい。お前が怪我したって他の奴に聞いてな。保健室に向かったんじゃねえかって…。」
「あ、はい。でも突き指だと思いますし。大丈夫です。それなら自分で適当に湿布を…。」
「見せてみろ。」
「え?」
先生は私の前に立ち、私の手をとると少し動かす。
鈍い痛みに思わず眉を顰めると先生が手を離した。
「骨折はしてなさそうだな。まずは冷やすか。」
そう言って備えられている冷凍庫から保冷材を取り出し私の手に当てた。
ひんやりと気持ちいい。
「しばらく冷やしてから湿布貼って固定だな。」
「ありがとうございます。」
先生は私の隣にあった椅子に座り窓からグラウンドを眺めていた。
私も視線を追うように外を見る。
天気が良くて、これじゃ確かに熱中症になるかもと思った。
「お前運動苦手なんだって?」
「うっ!誰に聞いたんですか。」
「一緒にバレーしてたやつら。なんかうまくこなしそうなのにな。」
「苦手です。運動は全般だめ。」
「へえ。」
グラウンドで思い切りサッカーしている子達がうらやましい。
私も足が速ければなとか考える。
「ま、得意不得意は人それぞれ。得意な事伸ばせばいいんじゃねえの?」
「…慰めてるんですか?」
「まあな。」
先生は私の方を見て手を伸ばした。
「え?」
その手はそのまま私の手に…あ、保冷材とるんですね。
手早く湿布を貼り、包帯で固定してくれた。
そうだよ、治療だよ。治療…何一瞬ドキッとしてんの私。
「先生、これぐらいなら一人でもできますから。」
「でたな、お前の悪い癖。【一人でできる】。」
「でも…。」
「教師が生徒心配して何が悪い。仕事だ仕事。気にするな。」
言い終わると先生は立ち上がり、私の腕を引っ張って立ちあがらせた。
「さて、せめて応援ぐらいはしてやらねえとな。戻るぞ。」
「は…はい。」
「優勝したらジュースでも買ってやるか。」
「え!?本当に!?炭酸飲みたいです。」
「…意外とガキだな、お前。」
ははっと笑う先生は最初の印象と全く違う。
怖くなんかなくて、ただただ優しい先生だ。
気になるお年頃
よくわからないけど。先生の笑った顔が離れない。
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