先生のとなり | ナノ
 帰り道の危険

「では、よろしくお願いします。」

「はい。責任を持って送りますので。お世話になりました。」

「気をつけてね。」

「ありがとうございます。」


数十分後。
交番に現れたのは案の定というかなんというか土方先生だった。
二人並んで警察官にお辞儀をして交番を後にした。
家が隣だから帰り道は当然一緒だ。安心はするけど…何だか申し訳ない。


「…大丈夫か。」

「え?」


隣を歩く土方先生がいきなり呟いた。
びっくりして先生の方を見ると、先生はいつものように眉間に皺はよせているけれど、やや眉を下げ気味に私を見ていた。


「怖かっただろ。」

「えっと…まぁ。でも何もされてませんし。むしろ私が思い切り殴る蹴るしてしまったので相手も気の毒といいますか…。」

「馬鹿野郎。弱い女を狙うなんてクズ、それぐらいされて当然だ。」

「先生がクズとか言っちゃだめですよ…。」

「一人で歩いている女狙うような奴はクズで十分なんだよ。」


普段から口は悪いけれど今日の先生は一段と悪いな。
でも生徒が変質者に出くわしたんだから仕方ないか。


「あまり一人で帰るな。できるだけ友達と帰れ。必要なら総司に送らせるぞ、あいつも家こっち方面だろ。」

「いいですよ。沖田君に借りを作ると怖いんで。」

「…違いねえな。」


私の一言で先生がようやく眉間の皺を消してくれた。
ふっと微笑むとやっぱり綺麗な顔立ちだななんて思う。


「今日は驚きましたけど、そうそうあることじゃないですし。できるだけ周りに迷惑はかけたくない…。」


土方先生が私の頭をぺしっと叩いて言葉を遮る。
痛くはないけど驚いて思わず目を丸くした。


「迷惑とかなんとか考えてんじゃねえ、お前は子供なんだ。もっと周りを頼って良いんだよ。で、周りが困ってたら助けてやればいいだろうが。」


叩かれた頭を押さえて目をぱちぱちとさせてしまう。
すると先生が一瞬慌てたような表情になった。


「やべっ…痛かったか?すぐに手をだすなって近藤さんに言われてんだが…つい。総司とかにはすぐゲンコツ落としてるから癖でよ。」


体罰が散々問題になってるんだから気をつけてくださいよと笑ってしまった。
でも先生の場合は文句言えないな、だって私達のこと、本気で考えてる。


「気をつける。」

「そうしてください。」


ばつが悪そうに目を逸らして先生はまた真っすぐ前を見て歩き出した。
私もそれに続く。

マンションに辿りつき、それぞれの部屋の前に立つと私は先生にお礼を言った。


「先生、今日はありがとうございました。送ってくれて。」

「…。」

「先生?」

「いや、素直に礼言えるんだなと思って。」

「言えますよ!私問題児じゃないですってば!!」

「くくっ…悪い。わかってるんだけどなんだかな。お前は何かいつも一人で頑張ってるように見えるからよ。」

「うう…。」

「ちゃんと礼が言えるのはいいことだ。親御さんの躾がいいんだな。また後で連絡すると伝えてくれ。」


じゃあなと言って先生は部屋へ入って行った。
私もすぐに部屋に入る。
まだみんな帰ってきていないようで部屋は暗かった。


「一人で帰ってたら…怖かったかも。」


隣の部屋に先生がいるんだと思うと安心できる。
先生なら少し頼っても良いんじゃないかって気持ちが出てしまう。


「だめだめ。あまり人様に迷惑をかけない!…勉強しよ。」


気持ちを切り替えようと部屋に入り、勉強しようと試みたが…。
変質者のことより何より、先生が笑った顔が離れなくて。


「…何だろ。困ったな。」


帰り道の危険

結局勉強は放り出し、夕飯の支度をすることになった。

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