▼ 初めまして、お隣さん
忘れもしない。
だって入学式の日だったから。
式典が終わって簡単なホームルームが終わった後。
すぐに帰るのもつまらないなーなんて思って校内をまわっていた私は最後に屋上へ向かっていた。
今時屋上なんて鍵がかかっているだろうし、入れる可能性は低かったけれど、それでも入れたらラッキーだなとぼんやり考えながら階段を上っていた。
ガチャリ…とドアノブが回る。
明らかに普段は鍵がかかっているであろう気配のそれが開いてしまったことに驚いたけど、好奇心に勝てずにドアを開いてしまった。
そしてそこには。
青から赤へと変化しようとしている綺麗な空と。
ふわふわと舞いあがる白い煙と。
綺麗な黒髪を風に靡かせながら立っていたスーツ姿の男の人の背中があった。
私がたてた物音に気付いたその人はゆっくりと振り返る。
綺麗な紫の瞳に整った顔立ち。
確か他の生徒が騒いでいた気がする…土方先生だ。
先生なのに…校内で煙草?
黙り込んでいる私を無表情で見つめる先生に何だか見てしまったこっちが悪い気さえしてきた。
「煙草…。」
もっとマシな事言えば良かった。
思っていた言葉がそのまま出てきてしまうなんて…。
「黙ってろ。」
「は?」
一言そう呟くと先生は携帯灰皿を取り出して煙草を押し付けた。
スタスタとこちらへ向かって歩いてくる先生に思わず一歩後ろに下がってしまったけれどぽんっと手が頭の上におりてきた。
「屋上は基本、立ち入り禁止だ。危ねえからあまり近づくな。フェンスも古くなってる。」
視線を少し上に上げると先生との距離が近くて驚いた。
ぽんぽんと頭の上ではねているのは先生の手で間違いないんだよね?
立ち入り禁止の所に何で先生はいるの?と聞きたくなったけれど眉間の皺に何も言えなくなる。
でも、一瞬だけ…先生がふっと笑った気がした。
「入学おめでとう、新入生。」
「あ…。」
それだけ言うと先生はその場を立ち去った。
今思えば、それが私と先生の最初の会話だったんだ。
でもあっという間に時間は過ぎて。
私と先生は特に関わることもなく、いつの間にか私は高校三年生になっていた。
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