「フライドポテトにポテトサラダにチーズいももち。」 「しずくちゃん…じゃがいも祭りじゃないんだけど。」
ピッピッと軽快な音をたててタッチパネル式の注文を進めると横から沖田さんにツッコまれた。仕方なく違うページにしてお酒のつまみになりそうなものを探す。
「えぇ…じゃがいも大好きなんですもん。じゃあ塩辛も。」 「しずく、バランスよく食べなくては体調を崩すぞ。」 「斎藤さんだって揚げ出し豆腐に豆腐サラダ、山芋と豆腐のグラタンって豆腐祭り開催してるじゃないですか。」
斎藤さんからも注意をされたが彼にだけは言われたくない。…まぁ斎藤さんのほうが体に良さそうだけどさ、お豆腐はヘルシーだし。注文を終えると私と沖田さん、斎藤さんは先に頼んでいた生ビールで乾杯をした。個室が開いていなくてカウンターで三人並んで飲むというのはなんだか不思議な感じがするが悪くない。右に斎藤さん、左に沖田さんという両手に花状態はドキドキしてしまうが毎日顔を合わせているおかげでこれでもだいぶ慣れた。入社当時の私だったら一緒に飲みに行くこともできなかっただろう。
「やっと一区切りつきましたね、仕事のほうも。」 「恐ろしいスケジュールだったもんね。鬼部長のせいで。」 「総司、あれは土方さんではなく先方の責任だ。」 「受け入れたのは土方さんじゃない。こっちにとばっちりがくるんだよ。しずくちゃんなんて女の子なのに毎日終電だったんだから。」 「まぁ仕事に男女関係ないですよ、沖田さん。」 「いい子だね。」
ふわりふわりと頭を撫でられるのは心地いい。左を見れば優しそうに笑っている沖田さんがいて私もつられて笑ってしまった。いつも余裕がある感じで上司ともやりあえる沖田さんは憧れの先輩だ。そしてこの見た目、天は二物を与えている。確実にだ。
「総司。女子に気安く触るな。」
ぺしりと沖田さんの手を払った斎藤さんはいつの間にか運ばれていた豆腐サラダを私に取り分けてくれた。うう、うちの部署のおかんと陰で呼ばれているだけあって高い女子力。綺麗な顔立ちはいつまでも見ていられると他部署の女子社員がわざわざ休憩時間に見に来るほどだ。仕事は的確で何より速い。普通の人の二倍の速度で終わるとの噂がある。
二人は同期で、同じ部署に配属された私は二人のやりとりをいつも近くで見ていた。最初はバリバリ仕事しているのかなーかっこいいーとか思っていたけれど意外とくだらない口喧嘩みたいのも多くて親近感わいたんだよね。
「はいはい、一君は固いよね、相変わらず。」 「固くはない。あんたが軟派すぎる。」 「二人を足して二で割るとちょうどいいと思います。」 「「嫌だ(よ)」」 「そういうところばかり仲良しですよね。」
次々と運ばれる料理を食べながら笑って二人を見れば少しバツの悪そうな顔をして互いにそっぽ向いていた。本当仲良し。
「でも私、段々仕事が楽しくなってきましたよ!あれですね、心臓を捧げよって感じですね!捧げます!」 「しずくちゃん見事に社畜化してるよ…やめなよ。」 「しずく、心臓は捧げる必要などない。捧げるのは頭と手だけだ。」 「斎藤さんの場合は顔もですよ!」 「二人とも、自分がおかしいってことに気づこうね。」 「いやー最近、定時から本番っていう先輩方の気持ちがわかってきました。」 「わからなくていいから。残業は本来やるべきじゃないから。」
お酒を飲みながら話題になるのは結局仕事のことだ。だけどこの二人とならその会話も楽しくなる。憧れの先輩といられるなら話題なんてどうでもいいってことか。 そう。私は二人に憧れている。仕事っぷりはもちろん、その…男の人としても素敵だなと毎日思っている。
いや、待っておくれ。わかっているよ。何二人にときめいてんだって話でしょう?私だって一度に二人気になる人がいるなんてこと人生で初めてですよ。いつもこうじゃないから!そこだけは否定しておくから!
でもどんな人だってこの状況に陥ったらこうなるって。沖田さんと斎藤さんだよ!?この二人が毎日近くにいて、毎日視界に入って、毎日話しかけてもらって…。
お・か・し・く・な・る・で・しょ!?
感覚が普通じゃなくなるでしょ!?おかげさまでそこら辺歩いている男の人はみんな芋に見えるわ!!
「しずく?どうした?酔ったのか?」 「え!?あ、いえ大丈夫です。」
突然さらりと前髪に触れられ我に返ると斎藤さんが心配そうにこっちを見ていた。俯いていた私の表情を見るために髪に触れたんだろうけどそれアカンやつぅぅぅ!顔に一気に熱が集まる。
「あれ、一君さっきは女子に触れるなとか言っておいて自分はそれ?」 「今のは心配しただけだ。理由もなく触ったりなどしない。」 「ふーん。まあ僕は一君とは違うから自分の好きにするけどね。」 「おおお沖田さん!?」
ぐいっと肩を掴まれて引き寄せられ慌てて離れようとするが狭い席でそれも叶わず。どうしようどうしようと考えていると目の前にかなり怖い顔をした斎藤さんがいた。
「総司。」 「なぁに?一君。」 「離せ。困っている。」 「ええ?しずくちゃん困ってるの?」 「あーえーそのー。」 「パワハラとセクハラで訴えられるぞ。」 「しずくちゃんが訴えたらの話だけどね。」
何これ。いや、私もさすがにそこまで鈍くないよ。お二人とも、どうしたんですか?何故そんな怖い顔でお互いを見ているんですか?なんて思わないよ。これ、もしかしなくても私…おいしい展開!?
「ねえ、しずくちゃん。さっき会社に心臓を捧げるなんて言ってたけどさ。どうせなら僕に捧げてよ、全部。」 「え!?」 「しずく、総司の言っていることは気にするな。酔っぱらいの戯言だ。」 「一君、僕が酔ってないことなんてわかってるでしょう?自分は何も言う気がないなら邪魔しないでくれるかな?」 「…しずく、総司じゃなくて俺に…その、俺にしておけ。必ず幸せにする。」 「斎藤さん!?!?」 「一君いきなりプロポーズってぶっ飛んでるね。」
いやもうあんたら完全に酔っぱらい!!!お酒飲んでいる時の言葉なんて信じちゃいけない。そうわかっているのに…。
左右どちらを見ても真っ直ぐにこちらを見つめる綺麗な目があって、私はどちらも見られなくなった。自然と目の前にあるお酒に視線がいき…それを手にして一気に飲み干した。
そして二人が私を呼ぶ声がした気がするんだけど、何だかよく覚えていない。
「ん…。」 「あ、気づいた?今帰ってるところだよ。」 「水だ。飲めるか?」
ゆっくりと目を開ければ心地よい揺れを感じる。どうやらタクシーに乗せられているようだ。二人の声にばっちりと目が覚め、差し出されていた水を手にしてお礼を言えば左右の二人は微笑んでいた。 私はどうやら飲みすぎて寝ていたらしい。先輩たちの前でなんという失態。なんというご迷惑を…。焦りの表情ががっつり出ていたらしく斎藤さんには気にするなと言われ沖田さんには笑われた。
もしかして私は夢を見ていたんじゃないかな。飲みすぎて早々と寝落ちしてあんな素敵な夢を。そうに決まってる。うちの会社でも一位二位を争うモテ社員が私なんかを取り合うわけがない。こうして飲みにいけるだけでありがたいことだ。
「お二人ともすみませんでした…。次からは気を付けます。」 「いいよ、一気に飲みすぎたんでしょ。まぁ仕方ないよね。一君いきなりあんなこと言うし。」 「え?」 「総司、お前も似たようなものだろう。」 「はい?」 「でさぁしずくちゃん。」 「「どっちにする(のだ)?」」
狭い車内。挟まれて一ミリも動けない私。 どうやらあれは夢なんかではなかったと知り、暑くもないのに冷や汗が流れてきているのを感じ、私はこれから究極の選択をすることになるのであった。
終
→水城様
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