「くぅ〜りすますがこーとーしーもー」
「大きな声で歌うな。外だぞ」
「いいじゃん、今日は町中クリスマスのBGMで溢れてるし、みんな自分たちの会話に夢中で聞いてないって」
「なるほど、では俺が先ほどから少し苦笑いの表情で何人かに哀れむような視線を投げかけられたというのは気のせいといいたいのだな」
「すみませんっしたー」

今日はクリスマス。今年は日曜日ということもあり町中賑やかだ。節電と言われながらもイルミネーションはキラキラと輝いているし見ているだけで歌いたくなる気持ち、わかるでしょう?


「さて一。チキンはどこでゲットするか。モ○かケン○かそれともコンビニ!?最近どこも美味しいから少しずつ色んなところで買っちゃう?ケーキはお父さんが買ってきてくれるしなぁ」
「…しずく」
「パーティは夕方だし、帰るギリギリに買おうか。私としてはケン○とコンビニで迷うところだけど…」
「しずく」
「ん?あ、一は○ス派?OKOK。ならそこも寄ろう」

ぐっとサムズアップすればその親指をぐいっと引っ張られて思わず変な声が出る。びっくりした、親指抜けたかと思った。

「何すんの!?」
「人の話を聞け」
「だから聞いたじゃん。一はモ○チキンがいいんでしょ?大丈夫だよ、色々買うから!」
「鶏肉から離れろ鳥頭。また三時にもなっていない」
「ひどいよ、愛しい彼女に言うセリフじゃないよ」
「なら愛しいと思われる言動を心掛けろ」

ぶーと口を尖らせて親指をくいくい動かして異常がないか確認する。…あるわけないんだけど。
今日は夕方から我が家でクリスマスパーティなのだ。張り切ったお母さんが一も招待した。お父さんは微妙な表情だったけど二人で出かけるぐらいならうちに来いと言ったようだ。

「ほら、ご両親に何か買うのではなかったのか?」
「あ、雑貨屋さん行っていい?ペアのマグカップ買ってあげようと思って」
「ペアなのか…」
「うん。ラブラブでしょ?」

ふらりとお店に立ち寄りふらふらと品物を見て回る。シンプルなマグを色違いで購入しラッピングをしてもらう間レジ横のアクセサリーに目がいった。やっぱりアクセサリーは気になってしまうんだよね。たいしてつけるわけでもないのに。
えへへ、いつかは一とペアリング。いつか必ず!…ものすごい嫌な顔されそうだけども。

「いつかペアリングがしたいなー」
「ひ!?」
「と、顔に書いてあるのだが俺の勘違いでいいか?」
「…エスパー?」

店内を回っていたはずの一がいつの間にか背後に立っていた。どうやら私がニヤニヤしながらアクセサリーを見ていたようでそれを止めにきたようだ。

「いつかはいいじゃん!憧れるんだよ!」
「…高校生のうちは普段つけることもできないのに必要ないだろう」
「大学生は?」
「考慮する」
「ほんと!?」

また頬が緩んでしまうのが自分でもわかる。綺麗にラッピングされた両親へのプレゼントを受け取る私に一がため息をついた。

「そんなにペアリングがいいのか」

お店を出て近くのカフェで飲み物をテイクアウトすると私達は青や白に点灯する装飾をつけられた大きな街路樹の下のベンチに座った。寒いからお店の中でも良かったんだけど今日は外もいい気分なのだ。


「え?」
「大学生になったら考えると言っただけで顔がにやけてすごいことになっていたからな」
「待って、すごいことって何」
「見ていられないほどだ」
「止めろよ!…まぁペアリングも嬉しいんだけどね。大学生になっても付き合ってくれるつもりなんだなーと思って」

私がそう言えば一がコーヒーを思い切りむせた。げほげほと咳き込む彼の背をさすり大丈夫か聞くけれど返事は咳のみである。そりゃそうか。

「あんたは…何をいきなり…」
「え?だってそういうことだよね?」
「まぁ…それは…」

視線をあちこちへと動かしているのは照れてる証拠。本当可愛いなあマイダーリンは。
…と口に出せばものすごいスピードでデコピンが飛んできた。ちょっと待って、こいつ今日暴力的じゃない?

「仮にも!可愛い!愛しい彼女に!デコピン!?」
「仮にも、可愛い?愛しい?彼女?にデコピンもしたくなるだろう、なんだマイダーリンって」
「ちょっとぉぉ!彼女のあとにはてなマークはおかしいでしょう!?」
「それ以外はいいのか…」

ひどい、私をもてあそんだのねと膝にのの字を書き始めればすっと目の前に小さな箱が差し出された。ちょこんと掌に乗るサイズの小箱は綺麗なリボンがついていてもう明らかにプレゼントである。

「え…」
「両親の前で渡す勇気は俺にはない」
「あけても?」
「寝る前まで待てるのか?」

無理!と言うと同時にリボンをほどく。なるべく丁寧に包装をはがせばベルベット生地の小箱が現れた。

「一パイセン…私こういうの指輪が入っているのしか見たことない」
「そうか、奇遇だな。俺もそんなイメージしか持っていない」

私の話し方に最早ツッコむ気もないのか、一はコーヒーを飲みながら少し離れたところを見ている。悔しいけどものすごく格好良くて何故私が隣に座っているのか最大の謎になっている。

ゆっくりと箱を開ければ小さな小さな指輪が入っていた。ピンクゴールドのそれは中央でクロスされていて小さな石がついている。こんな可愛らしい指輪をいつの間に彼は買いに行ってくれていたのだろうか。恐らくとても恥ずかしかっただろうに。

「一パイセン…あの…私…」
「その呼び方をやめろ。俺はそういうものには疎い。デザインが気に入らなかったら違うものを選びに…」
「違う!めっちゃ可愛い!ただ!私!こんなに指が細くない!!!」
「…」

ふるふると指輪を掴み彼に見せるように薬指へ持っていくが全く持って入る気配がない。この人私の指がどんだけ細いと思ってるの?入り口からNO!って言われてる感じがすごいよ。

「…それはピンキーリングだ。小指用だ」
「え、あ、ほんとだ」
「貸してみろ」

あきれ顔+ため息の彼に指輪を渡せば恭しく私の手をとりゆっくりと指輪をつけてくれた。それはほんの一瞬の出来事だったのに私にはまるでスローモーションのように見えて周りの景色が消えてしまった。いや、本当に。

「まるで結婚式みたい…」
「ば!バカかあんたは。何をいきなり…」
「永遠の誓いに見えた」
「気のせいだ。永遠なんてものは存在しない」
「クリスマスにそれ言う!?指輪プレゼントしておいてそれを言う!?」


一はがさごそと箱や包装紙を片付けて立ち上がると私に手を差し出した。文句を言いつつそれを掴んで一緒に立ち上がる。

「永遠なんてものは存在しないと思うが、それに近づきたいとは思う」
「え?」
「あんたとはこうして来年もその先も騒がしくクリスマスを過ごせたらいい。まぁ、そのうちご両親とは別で過ごしたいところだが」
「一?」

歩き始めても手は繋いだまま。小指に慣れない感触を感じつつ一の手の温もりにそれも段々と溶けていく。

「ほら、そろそろ行かないと色々なチキンが買えなくなるぞ。あんたはたくさん食べるんだろう?」
「待って、今重要な事言われた気がしたから待って」
「待たぬ。どうせ待ったところで俺にメリットはないだろうしな」
「あるよあるある!大好きだよ!マイダーリン!」
「やめろ、大きな声で言うな。…くそ、手を離せ」
「繋いだのはそっちのくせに〜」
「指輪返してもらうぞ」
「すいませんっしたー」

こんな風に来年もその先も一緒にいられるなら。
それだけでもうお腹がいっぱいだよ、一。







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