今日こそは言う。今日は絶対に言うんだ。
朝起きた瞬間にはそう思えるのに気が付いたらまたベッドに沈んで後悔する時間を迎える日々を送り続けて早一ヶ月。

「今日は絶対言わなきゃ。」

部屋に入り込む朝日に今日も一日暑くなりそうだと予感しながら私は体をゆっくりと起こした。

約束の時間は夕方の五時。今日は決戦なのだ。昼の間は家で課題でもしつつのんびりと過ごそうと決めた瞬間、携帯が震えた。メッセージを見れば〈晴れて良かったな〉とニコニコしたスタンプと共にメッセージが来ていてそのまま再び布団へ撃沈する。じたばたごろごろしながらも返事は〈そうだね。良かった。〉と冷静に送り返した。スタンプだって忘れない。ニコニコしたうさぎだ。…あ、間違えた。ニヤニヤしてるの送っちゃったぁぁ!

私が同じクラスの平助君に恋を自覚するようになったのは一ヶ月前。それまでは仲のいい友達だったんだけど友達に二人は付き合ってるの?と聞かれてから突然意識しだしてしまったのだ。そう、突然。
気になりだしたら最後、あれ、かっこいい…かも?とか、一緒にいて楽しいなとかもっと一緒にいたいなとか欲望…ゴホン、思いが溢れだして止まらなくて。
だから言わなきゃ、伝えなきゃって思ってたのになかなか言えなくて。だってもしも平助君にとって私は友達にしか見られないとかだったら悲しいしこれからどうしていいかわからないじゃない。
友達にはどう見ても大丈夫だからさっさと告白しろって言われているけどそんなのわからないじゃん!平助君の気持ちは、平助君しか知らないんだよ。
それでも勇気を出して夏祭りに誘ったんだ。嬉しそうに行く!と即答してくれてその日私は喜びのあまり帰り道はしゃいで転んだぐらいだ。

「早く会いたいな…。」

壁にかけられた浴衣を眺めて、私は夕方が来るのを待った。








「…あれ。今何時?」
「しずく、あんた今日浴衣着てお祭り行くんじゃないの?」

私が目を覚ましたのと部屋にお母さんが入ってきたのがほぼ同時でその声に飛び上がるように起きると時計が目に入った。約束の時間まであと三十分。


「ぎゃああああああ!!!!!」
「うるさいわよあんた。」


お昼ご飯を食べていつの間にか眠っていた…にしても寝すぎだろ私!!
お母さんの匠の技でどうにか浴衣を着て家を飛び出したけど約束の時間を十分は過ぎることになる。メッセージを送ったけど大丈夫かな?普通こういうのって女の子が待ってて男の子が駆け寄ってきて「待った?」「ううん、大丈夫。」みたいなやり取りするところだよね!?私何で浴衣で全力ダッシュきめてんの。

待ち合わせ場所に立っている平助君を見つけて私はさらにスピードを上げた。

「平助君!!」
「…しずく?別に走らなくていい…ってあぶねえ!」

慣れない履物で走るもんじゃないなぁ…なんて転びかけてから思う私は本当のアホでした。思い切り地面とこんにちはすると思ったのにお腹に少し衝撃があるだけだった。

「ま…間に合った。」
「平助君!」

平助君の腕が私のお腹を支えるようにして転ぶのを防いでくれていた。いや待って近い!
転びそうになった恥ずかしさもあって一気に顔が熱くなる。

「ゆ…。」
「?」
「ゆきゃ…浴衣、似合ってる。」
「噛んだ?」
「言うなよ!!!」

あーもう!とか言いながら目をそらして私の腕を掴んで歩き出してくれたから、顔の熱を見られなくて良かったなと思いつつも思わず笑ってしまった。

しかし数秒後、浴衣似合っていると言われたことや腕を掴まれたまま歩いている現状にさらに顔に熱が集まって下を向くしかできなくなるのである。



夏祭りはたくさんの人で賑わっていた。神輿の周りは子供たちが集まっているし太鼓の演奏を眺めている人もいる。とはいえ私達はまずご飯かなと屋台を色々見ることにした。
好きな人といたら胸がいっぱいで食べられない…なんてことになるはずもなく、私はたこ焼きを、平助君はお好み焼きを買って空いているスペースで食べることにした。

「しずくも食べる?」
「え?」

…本当なんでこういうことすんなりできちゃうんだろう、平助君。楽しそうに私にお好み焼きを食べさせようとしてくれる彼に照れたら負けだと差し出されているお箸に食いついた。たこやきをどうぞと同じように差し出せばやっと恥ずかしいことに気が付いたのか顔を赤らめつつも食べてくれた。


食べ終わって私は綿あめを、平助君はリンゴ飴を買って歩き出す。もうすぐ花火の時間だ。花火が終わるまでに言わなきゃ。たったの二文字じゃないか。そう、すで始まってきで終わるだけ、ただそれだけなのに。
どうしてこんなに心臓が痛いんだろう。


ふわふわの綿あめを食べながら言おう言おうと考えていた私は何となく視線を感じて横を向けば平助君が綿あめを見ていた。

「食べる?」
「え?あ、いや、いいなって…。」
「何が?」
「え…やー…その…。」
「平助君、なんか変だよ。」

挙動不審なのはお互いさまなんだろうけど何だかおかしくて笑えば平助君が一瞬何かを決意したような目で私の手を握った。少し強くて大きな手に思わず目を丸くすればその手はすぐに離れた。

「悪い、痛かったか?」
「え?ううん、痛くないよ。驚いた…だけ。」
「そっか。」

そう言って平助君はまた私の手を握る。今度はさっきより少しだけ優しかった。

「…どんぐらいで繋げばいいのかわかんねえ。」
「えっと…。」

繋がれた手を握り返せば平助君の目が途端に柔らかくなる。緊張がとれたようなそれに胸がとくんと鳴った。

ああ、もう。言いたい。

ただ仲が良いだけじゃ足りない。
ただ一緒に遊びに行けるだけじゃ足りない。

ただの友達じゃ足りない。


「平助君…。」
「しずく。」

ほぼ同時に飛び出したそれぞれの名前にまた胸が苦しくなって、もう、何だか泣きそうになる。

ぎゅっと手に力が入れば同じように返されて、言葉以上のものはもうお互い伝わっている気がするのに、ただの二文字が出てこない。
周りのざわめきが一瞬消えた気がして、その瞬間に言葉が零れた。それは確かに平助君には届いたようで、彼の綺麗な大きな目がさらに大きくなったと思えば、

「俺も!」

ぐいっと手をひかれぎゅっと抱き寄せられ私はやっと思いが伝わったことを認識する。

「すげえ嬉しい!めちゃくちゃ嬉しい!!」
「平助君…。」

綿あめを落としそうになっていたことに気が付いて慌てて持ち直しつつも彼の腕から逃れることはしなかった。だってそれだけはできない。

と、思っていたんだけど。

「わー、平助、おめでとう。花火と一緒に爆発しなよ。ねえ、一君。ああいうのを爆発しろって言うんだよ。」
「なるほど。平助、月野、おめでとう。」

「「え…。」」


声の方を振り向けば沖田君はニヤニヤしながら拍手しているし斎藤君は無表情で頷いているし彼らにつられて周りのノリが良い人たちが拍手やら口笛やらを送ってきて私達はやっと大勢の人の目の前で告白してしまったことに気が付いた。

「あ…あ…ごめんなさい!!!!」
「しずく!?」


とにかく走った。恥ずかしくて走った。花火とか頭から抜けていた。後から平助君がすぐに追いついてくれたけど私達はもうあの会場に戻る勇気がなくて花火を見ずに帰ることにした。

それでもお互いの気持ちが伝わった、それだけで満足な私達はしっかりと手を繋ぎながら暗くなった道を歩いた。
ふわふわの綿あめとパリパリのリンゴ飴をはんぶんこしながら。甘くてくすぐったい時間をゆっくりゆっくり過ごして。これからもずっとこんな風にいられたらななんて思うんだ。







→ななお様





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