「しずくさんって休みの日は何してるんですか?趣味あります?」
「そうねぇ、基本家でのんびりしたいところだけど友達とご飯食べ行ったりライブ行ったりもしたくて年々体がついていけないわ。でもね沖田君。」
「はい?」
「それ、わざわざ今聞くこと?…日曜に仕事している私達が話す内容かしら。」
「…あはは。すみません、前に休んだのもういつか思い出せなくて今日の曜日なんて覚えてなかったんですよ。」
「…うぅ、沖田君、これ片づけたら飲もうね!?原田さんの奢りでたらふく!!!」
「おいおい何で俺の奢りだよ…ちなみに俺も前の休みいつだか覚えてねぇぞ。」

カタカタとキーボードを打つ音だけがしていた室内で突然後輩の沖田君が口を開いたのが始まりだった。静かに仕事をしているだけの空間に耐えきれなくなったのだろう。私も原田さんも同じだった。一度話し始めたらもう止まらない。出てくるのは上司の愚痴と仕事内容の不満、不安…と言っても文句を言っているのは私と沖田君で原田さんは聞いてくれているだけだった。それでも手は休めていないのだから褒めてもらってもいいぐらいだと思う。

「まぁ今回のは得意先の無茶ぶりだからな。上のせいってわけでもないだろ。」
「そうは言いますけど原田さん。普段は大抵上のせいです。今回は違いますが上への不満が消えることはありません。」
「あーあ、このデータとか全部消し去って土方さんに辞表でも叩き付けようかなー。」
「早まるな総司!お前疲れてんだろ。もう少しで終わるんだ。これが終わったらうまいもん食いに行こう、な?それから土方さんこのプロジェクト関係ねえだろ、とばっちり甚だしいぞ。」
「あーあ、私も今までやってきたデータ消して、書類も燃やして辞表を叩き付けようかな。いつまでもこんなことしてたら嫁にも行けないしそれどころか彼氏もできないし私がすべきなのはサンプル数えることじゃなくて婚活…。」
「しずく、お前も早まるな!あと少しでうまいビールが飲めるぞ!な!」

少し遠い目をしながらぶつぶつ呟きだした私と沖田君を見て原田さんが宥めてきた。原田さんって二つしか年変わらないのに落ち着いていて素敵なんだよね。

「「わー!ありがとうございます。ごちです。」」
「…てめーら、疲れたふりかよ。」

頼れる兄貴的存在に私と沖田君はいつも助けられていたのでした。



それから一時間後。私達は会社近くの居酒屋にいた。ちなみに明日は数週間ぶりの休みだ。飲んで飲んで飲みまくる予定だ(原田さんの奢りで)

「「「乾杯!」」」

ビールは喉ごしとはよく言ったものだ。舌で味わうというより喉で感じるものだと私は思っている。ぐぐっと飲み干す私に沖田君はぱちぱちと控えめな拍手をするし原田さんは目を細めて笑ってくれた。ええ、もう最初から生を注文する私ですよ。イケメンの前だろうとそこはもう気にしませんよ。なんてったってすっぴんも見られてますから。
え?いい仲なのかって?んなわけあるか、終電逃して会社泊まるのなんてザラなんですよ。

「ああ命の水〜。たまらないですね。」
「最初から飛ばしすぎるなよしずく。」
「いい飲みっぷりですよね、しずくさんは。」
「何よ、ひいてんの?沖田君。」
「別に?僕は男の前で態度変わるような子は好きじゃないですし。まぁだから会社に泊まってすっぴんさらしてデスクで口開けて寝てるしずくさん、好きですよ。」

ほら、と言って彼が見せてきたのは彼のスマホにうつる私のひどい寝顔だった。

「ちょ!か!隠し撮り!?けけけけ消しなさい!」
「無防備なはずなのに逆に鉄壁の陣って感じで…くくっ…。」
「おーーーきーーーたーーー!!!」
「おいおい総司、その辺にしておけよ。女の寝顔なんて勝手に撮るもんじゃねえ。」
「原田さんっ!!」
「そういうものは自分だけのものにするべきだろ?」

ビール片手にさらりとそういうことを言う原田さんは社内で一番のモテ男です、ちなみに沖田君は二番目です(土方さんはご結婚されて殿堂入りです)

「…今日も原田先生の御高話を拝聴させていただき感謝です。」
「さすが左之さん、女の人何人も泣かせてきた人は言うことが違うよね。」
「こら待て総司!誰が何人も泣かせたって!?」
「えー?言っちゃっていいの?」

沖田君は昔から原田さんと知り合いらしくて社外ではこうして敬語をとって話していた。
その距離感が羨ましいと思いつつもこうして二人と仕事できるんだから自分はおいしいポジションにいるんだといつも神様仏様人事様に感謝している。

原田さんが泣かせた女の人の数…か。それこそ星の数と言っても過言ではないんだろう。いや、原田さんが泣かせるってあまり想像つかないけど。きっと彼女をたてて別れてるに違いない。ええ、違いない。泣かせた数って言ったら沖田君の方が多そうじゃない?

「沖田君のほうが泣かせそうじゃん。いじめそうじゃん。」

ビールを置いて枝豆に手を伸ばしながらそう言えば彼は心外だと言わんばかりに肩をすくめた。

「僕これでも一途なんですよ。少なくとも本気になった相手を泣かすようなことはしないかな。」
「へぇ。それは意外。」
「ということでしずくさん、今度僕とデートしましょ?」
「…?」
「仕事中とか、このすさまじい寝顔以外の表情が見たいんで。」
「だからそれ消してよぉぉぉぉ!!!」

ひらひらと目の前にちらつく私のひどい寝顔をまだ消していないのか、というかいつのまに待ち受け画面にしたんだこいつ!悪趣味!
デートっていうかどうせ美味しいもの食べに連れて行けってことだ、この画像を消す代わりに。


「総司、そんな小学生みたいな誘い方しかできねえのか。」
「やだなぁ、左之さん。本当は誘いたいのにぐずぐずしている小学生以下の人に言われたくないんですけど。」

あれ?なんか二人とも口角は上がってるけど目が笑ってないんですけど。怖いんですけど。ってか待って。この状況ってさ、少女漫画とかによくでてくるあれじゃないの?

いや、そんな、まさかね。

そんな夢みたいな考えが一瞬よぎったけれど、焼き鳥を食べつつ忘れようとする。だってありえないじゃん。この二人が自分をなんてさ。

でもどうやら…夢じゃなかった!(某映画の少女たちのセリフが再生された)

するりと猫のように私の隣に近づいた沖田君は耳元に顔を寄せてとんでもないことを言いやが…仰いました。

「僕本気でしずくさんのこと好きだから。」

焼き鳥の串を落とし、何も言えず口をあんぐりと開けた私を見てくすくすと笑っている。しかし近い。近いよ君。仮にも先輩相手に、そしてさらにその先輩の目の前でさらりと言ってしまうのか。怖い、この子怖い。

「おお…おお…おき…沖田…。」
「ちっ。」

どうしていいかわからず呻くように名前を呟いている私を見て原田さんが小さく舌打ちをすると立ち上がって私の横へ来た。

「しずく。今度は俺と二人で出かけてくれねえか?」
「原田さん…?」

そっと頬に手を添えて原田さんの方へ向かされた私にあの色っぽい美声が降りそそぐ。

「好きだ。ずっと前から。」

「っ!?!?」


私これ今日死ぬのかな。それとももう死んでるのかな。

「左之さん、人の告白邪魔しないでよ。」
「今邪魔しねえのはバカだろうが。」
「しずくさんどっちにする?」
「急かす男は嫌われるぞ総司。」
「だって早く僕のものにしたいじゃない。」
「誰がお前のだって?」

私を挟んで会話がやりとりされてるんだけど待って、それどころじゃないから!
え?二人から?よりにもよってこの二人から告白されたの?会社総出のドッキリじゃないよね?

「しずくさん!」
「はい!?」

おそらく何の反応もない私に痺れを切らした沖田君が私の肩を揺すりながら名前を呼んだ。

「決められないんでしょ、どうせ。」
「え…あ、いや…。」

決められないってそんなすぐにはそりゃ決められないでしょ。原田さんは憧れ、沖田君は可愛い、そんな風にしか思わないようにしてたもの、仕事仲間だから。

目を泳がせているとまた沖田君が耳元でとんでもないことを言いやがりました。

「じゃあ…体に聞いちゃう?」






「まぁ俺達もいい年だし、それも悪くねえかもな。総司に負ける気がしねえ。」
「言ったね、左之さん。後悔しても知らないよ。」


ぐいっと座っている私の腰に手を回して沖田君が自分の方へ引き寄せた。ふわりと香る爽やかな柑橘系の香水が強烈に私の心拍数を上げていく。見上げれば翡翠色の綺麗な目に吸い込まれそうになって思い切り目を逸らした。
どうしようと考える暇もなく今度は原田さんが腕を掴んで私が座っていた場所に戻してくれた。ここで自分の方に引っ張らないところに原田さんの大人の余裕を感じる。
でも掴まれた腕はそのままでじわりじわりと熱を帯びた。

「…本当邪魔だなぁ。」
「そのセリフそのままお前に返す。」
「あの…二人とも…ここ…お店。」
「じゃあ場所うつす?意外と積極的だねしずくさん。」
「おい総司、お前まさか三人で移動するつもりじゃねえだろうな。」
「え?じゃあ先に僕に譲ってくれるの?」
「んなわけねえだろ。」

相変わらず二人で私を挟んで言い合いしている状況に慣れるわけがない。というか体に触れられていて正気が保てる気もしない。実際頭がふわふわしてきている。このままじゃ…本当にけしからん展開になってしまう気がする!阻止!


「…ざ。」
「「ん?」」
「正座だ!!バカ者!!!!!!」
「「え?」」

体に聞くなんてどこのエロマンガだ!付き合ってもいないのにそんなことしたいと思うわけないでしょうが!ふざけるな酔っぱらいども!…と、その後、ビールの酔いが回ってきた私に二人は正座をさせられ一時間近く説教されたらしいけど残念ながら記憶がない。

といっても二人の告白は本気だったようで、その後二人のアピール合戦がしばらく続き、会社ではどちらと付き合うか賭けまで行われることになることをこの時の私はまだ知らなかったのである。




→まりえ様





← / 





×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -