窓から差し込む光は明るくて温かい。日当たりの良いところもこの物件を選んだ理由の一つだ。毎日住むなら住みやすさを細かなところまで追求したい。そこは二人の意見が一致したところだった。
「疲れたー!土方さん、休憩しよう!」 「おう。」
開いても開いてもまだ積みあがっている段ボールを見るのに嫌気が差した私は少し離れたところで本を整理している彼に声をかけた。そして立ち上がると一番最初に荷物を整理したキッチンへ歩きコーヒーの準備をする。お湯が沸いて粉を入れたマグカップに注ぐとふわりと香る豆の香りがたまらない。リビングのテーブルに置くとちょうど彼もこちらへやってきた。
「んにしても二人分となると時間がかかりそうだな。」 「そりゃそうだよ。でもキッチンと寝室がなんとかなれば生きていける!」 「おいおい…リビングもさっさと片づけねえと落ち着かねえだろうが。」 「でもでも!ついつい整理してるつもりが本やらアルバムやら眺めちゃうんだよね。」 「お前、前の家を引っ越すときにも同じこと言ってたぞ…。」
コーヒーを口に運びながら笑う土方さんにドキリと胸が鳴る。窓からの光で黒髪がきらきらと光ってかっこいい。何度見てもかっこいい。
「美人は三日で飽きるってあれは嘘だな。」 「なんだ、藪から棒に。」 「だって土方さんはいつ見ても飽きない。」 「あほか。」
だってほら、そうやって笑ってくれるところとか、真剣な顔しているときも、私のことを怒るときだってその表情全てに引き込まれてしまうもの。
彼とは職場で出会った。私の指導係だったんだけど恐いし厳しいし最初は泣きそうになることも多々あった。でも厳しいのはちゃんと育てようとしてくれてた証だと気づいてからは必死についていったなぁ…。そしていつの間にか好きになって振り向いてほしくて試行錯誤したっけ。沖田君に相談したことだけは今でも後悔してる、本当に。
「何をぼんやりしているんだ。」 「え!?あ、色々思い出してて。」 「これ飲んだら次はリビングを重点的にやるか。落ち着かねえ。」 「えー。あと十分休憩!!お願いだよひじえもーん。」 「誰がロボットだ。のんびりすると動けなくなるぞ?」
正論でくる土方さんに勝てるはずがない…と思っていました、私も昔は。
「タラララッタラー。豊玉発句集!!!」 「てってめ!それどっから取り出した!?」 「一番最初に発掘したに決まってるよ〜。どれどれ新作は…。」 「あと二十分休憩にしてやるから返せ!!!ったく、くだらねえところ総司に似やがって!」
必死に私からノートを取り返すと慌てて寝室のほうへ走っていった土方さん。どこに隠すんだろう、後で探そう。ってかいつ書くんだろう。これから毎日一緒なのに。
「…何だか恥ずかしい!」
自分で思ったくせにじわじわと頬に熱が集まってくるのを感じた。そう、今日から私は土方さんと一緒に暮らすのだ。おはようからおやすみまで、ううん、おやすみの後も一緒だ。出張でもない限り外泊なんて滅多にしないだろうしどんな時も一緒って…。
「どんな生活なんだろう。」
でもただ一つ言えることは、たまらなく嬉しいということだ。好きな人の側にいられるなんてこんな幸せなことない。 勝手に上がっていく口角、緩む頬を思わず手で押さえていると突然後ろから手が伸びてくるのを視界に確認した。そのままぎゅっと包み込まれるように抱きしめられて慌てて上を見上げる。
「土方さん!?」 「何ニヤニヤしてんだ。」 「え?にやけてなんかないですよ。」 「嘘つけ。鏡に映った顔見てから言うんだな。」
リビングに置かれていた鏡におそらくばっちりと映っていたのだろう…私のニヤケ顔。
「別に…一緒に住むっていいなぁって思っただけです。」 「俺も。」 「え?」 「俺もそう思った。こうやって部屋を作り上げて、一緒にコーヒー飲んで…これから毎日こうして過ごせるのはいいもんだな。」
土方さんもそう思ってくれてたんだ。私は思わず自分の前に交差する腕にしがみついた。大好きな香りも声もこれからはずっと一緒。喧嘩もするだろうけどそれ以上に笑って過ごしていきたい。
「しずく。」 「はい?」 「…お前いつになった言うんだ?」 「え?」 「名前。」
見上げると少し照れくさそうに視線をずらす土方さんがいて、私は一瞬何のことだか理解できなかった。
「お前も土方さんだろうが。今日から。」 「あ。えー…っと。徐々に練習するんじゃだめ?」 「だめだ。」 「ええ!?あー…でもなんか突然言うのって恥ずかしい。」 「なら尚更言わせてぇな。」
少し意地悪そうに見てくる土方さんにさらに言いづらくなると頬に手を添えられてぐいっと向かい合わせにされた。
「…トシさん。」 「悪くねえ。」
ふわりと額にキスが降りてきて私はそのまま彼に抱き着いた。恥ずかしさと幸せでいっぱいになりながら、彼の温もりを感じた結婚記念日。
終
→のゆ様
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