昔から周りとよく比べられた。
それが嫌でみんなに合わせていた時期もあってけれどそれでも比べられる事実は変わらなかった。だから、好きにすることにした。
どうせ誰も、私自身なんて見てくれないじゃない。


―ライラック(初恋)―



「月野。ピアスは校則違反だが。」
「…斎藤君。あれ、なーんだ。」
「ん?」


お気に入りのピアスを奪われてなるものかと私はとっさに彼の背後に指をさした。そこを偶然藤堂君が通りがかったんだけど彼もまた校則違反となる指定外のパーカーを着ていたものだから斎藤君の姿にげっと嫌そうな顔をした。検査の日でもないかぎり先生も風紀委員もあまり厳しく言わないのだが斎藤君だけは別だ。

「平助!!あんたはまたそんな派手な…。」
「やっべ!!ってか月野!一人だけ逃げんなってええええ!!」

人は誰かの犠牲の上に立っている…そんな言葉を思い出しつつ私は必死に走った。もう放課後だからそのまま帰りたかったのだがカバンは教室だ。そしてしばらくは戻れない…斎藤君待っているだろうし。

走った先は体育館で部活動がとっくに始まっているはずの時間だったが誰もいなかった。そしてテストの準備期間だということを思い出す。来週から地獄のテストだ。

「…あーあ。ついてない。」

とりあえずピアスを外してポケットに入れた。これで万が一彼に見つかってもしらを切れるだろう。そもそも髪に隠れていたはずなのになぜに目ざとく見つけるのか。

校則違反なのはわかっているけれどつけたいからつける。この性格だから先生たちにもよく怒られているし風紀委員に目をつけられているのも仕方ないことだけどお行儀よくしていたって私みたいな成績も悪くて特にこれといったもののない生徒なんて埋もれてしまうだけだ。


――お姉ちゃんは何でもできるのにね…


ふと頭を母さんのセリフがよぎる。二つ上の姉は成績優秀、運動神経も良くて人望も厚い。妹の私にも優しいし本当にできた人間なんだと思う。だけど彼女と私は姉妹であっても全くの別人だ。私に彼女の能力を求められたところで応えられるわけがない。
小さいときは頑張ろうとした。でも無理だった。勉強しても運動しても一定以上伸びることはない。親の言うことを聞いていたって結局褒められるのはお姉ちゃんだけ。だったら…好きにすればいいと思った。私の成績が下がり、校則違反を平気でするようになっても親は何も言わなかった。多分私に興味なんてない。


「月野じゃねえか。何してんだ。」
「…原田先生。」


体育館の入り口で立ち尽くしていた私に後ろから声をかけたのは体育教師の原田先生だった。
私は一年生の時に教わっていたが今は違う。それでも先生は私の名前を覚えていてくれたらしい。

「なんとなく?」
「運動部でもないお前がこんなところに来るなんて珍しいじゃねえか。斎藤にでも追われたか?」
「エスパー!?」
「お前の年でもエスパーとか言うのか。意外だな。」

つっこむとこそこなの?と思ったけれどそれ以前の驚きが大きくて思わず口を開けたまま原田先生を見つめた。くくっと声を殺すように笑っているその姿はどこか大人の色気があってさすが女子生徒の人気を集めているなと思う。

「まぁちょっと。追われてまして。」
「あいつは厳しいからな。でもお前目立ちすぎだぞ。スカートもピアスも化粧もって何でもかんでもやりゃ目つけられんだろ。」
「…だってやりたいんだもん。」

原田先生は私の目の前に立つとぽんと頭に手を置いた。不思議と不快ではなく思わず受け入れてしまう。

「ま、お前ぐらいの年頃はなんでもしたいからな。わからなくはねえが…とりあえず一つでもいいからきちんとしとけ。それでだいぶ印象が変わる。」
「印象…。」

印象が変わったところでどうなるんだろうか。
お姉ちゃんみたいになれるわけでもないし、同じ学年の優等生、雪村さんみたいになれるとも思えない。なりたいわけでもない。
結局みんな、なんでもできる人に注目してそれ以外はどうでもいいんだ。

「別にいいです。変わらなくたっていいんです。」
「月野?」
「私は…どうしたって落ちこぼれですから。お姉ちゃんとか、雪村さんみたいにはなれない。」
「おい、どうした…?」
「放っておいてください!!!」

私の肩に伸ばされた原田先生の腕を思い切り払った。少し強すぎたかと一瞬後悔したけれどもう後には戻れない。気まずくなるのが嫌でその場を走り去ろうとした…のに。

「先生…。」
「落ち着け。お前…泣いてんのか?」

泣いている?私が?
原田先生に左腕を掴まれ振り向くと彼は私にそう告げた。右手で目元に触れれば確かにそこは濡れていて、私は初めて泣いていることに気づいた。

「なあ、お前の姉ちゃんのことはよく知らねえし、千鶴に至ってはどこから出てきたのかわからねえけどよ。俺はお前と、お前のことについて話してんだ。お前は一生懸命俺の授業を受けていたし、他の授業だってさぼったりしてねえ。毎日ちゃんと学校来てるし友達もたくさんいるだろうが。どこか落ちこぼれだって言うんだよ。」
「…。」
「周りと比べるな。お前はお前だろうが。」

私は私?
比べられたくないって思っていたけれど、いつの間にか私が周りと比べていたの?

「先生…。私、ダメなやつじゃないですか?私、頑張れていますか?」
「ああ。お前は良い生徒だよ。」

今まで私みたいなやつを褒めてくれる人なんていなかった。私は私のままでいいなんて言ってくれる人もいなかった。でも私、少しは認めていいのかな。このままでもいいのかな?

見上げると原田先生が優しく微笑んでいて、自分の鼓動が脳にまで響いた気がした。どくんどくんと響く音に体が熱くなる。これは間違いない、赤くなってる!!!

「せ…先生。」
「どうした?お前、顔が赤いぞ。熱でもあんのか?」
「違う!そうじゃなくて!!あの…。」
「?」

私の額に伸ばしかけていた原田先生の手を掴み、私は早口でこう告げた。

「先生!私…初めて人を好きになっちゃったかも!!!!」
「へえ、そりゃめでてえな。でもなんだいきなり?」
「先生のこと!好き!」
「…はぁ!?!?」

勢いのある私の告白に原田先生は目をぱちぱちとさせて一歩後ろへ下がりかけたが私に掴まれたままの手のせいでそれも叶わず。逃げられるわけにいかないと握りしめた手に力をこめた。

「私、校則違反やめる!周りと比べないで自分なりに努力する!だから…見ていてください。先生。」
「…お前がどう変わるか楽しみだな。」
「ほんと!?」

勢いのある告白から自分を変える宣言に移行してしまったけれど今はそれでいい。勉強も運動も他にもいろいろ、自分なりに努力して変わった自分でまた告白するから。
だからそれまで待っててね、原田先生!!!


―初恋―


(大人っぽくもなりますからね!!!待っててください!)
(まあ、それなりに頑張れよ。(いきなり目をキラキラさせやがって…うかうかしてると本当に持ってかれるな。))
(…そもそも、私、可能性あります??)
(聞きたいのか?)
(やっぱりだめえええ!聞いたら悲しくなりそうだからだめ!!!)
(くくっ…そうかよ。)


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