あんたが笑った顔が好きだ。
気が付けば目で追ってしまい、ころころと変わる表情に心を奪われる。
だけどあんたが目で追うのはいつでも俺ではないのだ。



―リンドウ(悲しんでいるあなたを愛する)―




『よろしくね、斎藤君。』

少し低めの落ち着いた声が耳に残った。顔を上げれば月野がいて俺は同じ風紀委員になったことを認識した。彼女の第一印象は大人びて見えたものだったがその時の笑顔は年相当で同い年であることを実感したのだった。
風紀委員の仕事で朝早くから一緒に行動したり放課後も仕事をしていて同じ時間を共に過ごした。彼女は長女で妹達の面倒をよく見ていること、料理は得意だが掃除は苦手だということ、勉強はいつも平均的だが体育は得意だということ…彼女に関しての知識がどんどん増えていった。そして。

『月野?』

夕焼けに染まる教室から外を見ていた彼女の視線の先に。


総司がいたことに気づいた。


『あ、斎藤君、お疲れ様。資料作ったから帰ろうか?』
『…ああ。』


俺に気づいた月野が笑顔でそう言ったからたまたまだと思っていたが、あれから彼女が総司を目で追っていることに気づいた。
そして、俺も。
彼女のことをいつも見ていることに気づいてしまった。



「はーじめ君??」
「っ!」

肩を背後から叩かれ思わず体が揺れた。その様子に当の本人はくすくすと笑っている。

「どうしたの?珍しいじゃない。一君がそんな反応するなんて。ぼーっとしてたの?」
「あ…ああ。総司か。どうした?」
「ん?実はさ手首痛めちゃって、病院いくから今日部活休もうと思って。大会も近いしね。」
「そうか。先生には…。」
「もう言ったよ。土方先生に早く治しやがれって怒られちゃった。」

笑いながら手首をさする総司を見て月野を思い出す。彼女が総司と話しているところを直接見たことがない。接点があるのだろうか。

「総司。」
「んー?」

思わず呼びかけてしまったが何を聞くというのだ。月野と仲がいいかなどと聞けば変に勘ぐられる。俺の気持ちに気づかれるならまだマシだが彼女の気持ちに気づかれるわけにはいかない。迷惑だろう。

「あ、いや…。」
「何?はじめ…。」
「斎藤君!」

どうごまかすか考えていた瞬間、振り向かずともわかる声が背後から聞こえた。案の定月野だった。

「風紀委員集まれって連絡がきたよー。」
「ああ、わざわざありがとう。」
「風紀委員っていつも忙しそうだよね。お疲れ様、一君。雫ちゃん。」
「ありがとう沖田君。」
「じゃあまたね。」

そう言って総司はひらひらと手をふりその場を去って行った。
その背中を見ていたがくいっと腕が引かれて我に返る。

「斎藤君、行かないと。」
「あ、すまない。」

俺は月野と並んで歩き出した。


――雫ちゃん。


総司は名前で呼んでいたが…彼女は名字で呼んでいた。
二人が話しているところなど見たことがないと思っていたが…。


「総司とは仲がいいのか?」
「え?」
「いや、あいつが名前で呼んでいたから…その、以前から知り合いだったのかと。」
「ああ、沖田君はね、一年生の時も同じクラスだったから。」
「そうか。」

それ以上聞けなかったのは、月野の目が少しだけ悲しそうだったからだ。
もしかしたら、一年生の時に二人には何かがあったのかもしれない、そう思った。


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bkm
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