『メガネじゃなくてコンタクトにすれば?』
『え?』
『その方が顔が良く見えるしいいと思う!そっちのほうが俺好きだぜ!』

きっと彼にとっては些細なことで、その≪好き≫に重みなんてなかったはずだ。
でも私にとっては重要なことで、その≪好き≫は私の世界を変えてしまった。


―リナリア(私の恋を知ってください)―


「今日もさみぃ!!」
「平助君もっと厚着すればいいじゃない。馬鹿なの?」
「総司ひでえ!!!一君、総司が開口一番から俺に馬鹿って…!!」
「平助。総司の言うとおりマフラーぐらい巻いてこい。見ているこちら側が寒い…。」
「ほら、平助君のせいで一君の顔が半分マフラーに隠れたよ。」


講義室の片隅で今日も賑やかな三人を少し離れた席から見ていた。
朝一番の講義で室内の温度がまだ上がっていないため多くの生徒がコートを脱ぐこともせず座っていた。
そんな中、藤堂君はコートは来ているもののマフラーも手袋もない状態だ、あれでは寒いに決まっている。
私はポケットに入っていたカイロを握りしめ、意を決して立ち上がると賑やかな彼らの方へと歩きだした。

「こ…これ、どうぞ。」

ぐっと藤堂君の前にあつあつカイロを突き出す。と、彼は少し驚いた表情をしたがすぐに破顔した。

「くれるの!?助かる!!!」
「…良かったね平助君。えーと…?」

藤堂君の隣に座っていた沖田君が私の顔を見て少し困っていた。おそらく名前がでてこないんだろう。うちの学科は少ない方とはいえ百人近くいるのだ。彼らみたいに目立つ生徒ならともかく私のような地味な生徒ならまず話したことがない限り把握されていないだろう。

「あ、あの…。」
「雫だよ。月野雫。本当ありがとなー。」
「ううん!私まだ持ってるから…。」

そう告げると私は急いで自分の席に戻った。
とりあえず、今日は…頑張った!!!





私が藤堂君と初めて話したのは一ヶ月ほど前のことだった。
もうすぐ冬休みが始まると浮かれ気分の学生が増え始めた頃、私は図書室へ向かって歩いていた。すると突然角から飛び出してきた人にぶつかったのである。あまりのスピードに避けることもできず私はそこで尻もちをついた。と、同時にメガネが床にカシャンと音をたてて落ちたのだ。


『悪い!大丈夫か!?』
『あ…はい。』


目の前に差し出されていた手がぼやけていて私はメガネを目で探した。それに気付いた目の前の人がメガネを拾ってくれたのだ。受け取りすぐにかけて見るとそこには同じ学科の藤堂君がいた。
話したことは一度もなかったけれど、彼と彼の友達は目立っていたから名前を知らない人はおそらく同じ学科内にいないだろう。でもきっと彼は私を知らない。

『ありがとう。』
『いやいや、俺がぶつかったんだって。お礼言うの変だから。』

ははっと笑う顔がお日様みたいで彼の人の良さがにじみ出ていた。

『俺と同じ学科だよな?名前…。』
『あ、えと…月野です。』
『下の名前は??』
『雫…。』

そっかそっかと頷くと彼は手を顎に当ててじっとこちらを見ていた。
人見知りで初めて話すと緊張してしまう私は思わず目を逸らしてしまったんだけど彼の手が顔に近づいてきてさらに体が硬直した。彼の手は私のメガネをすっと上にずらす。

『メガネじゃなくてコンタクトにすれば?』
『え?』
『その方が顔が良く見えるしいいと思う!そっちのほうが俺好きだぜ!』

その瞬間、顔に熱が集まるのがわかって思わずメガネを掴んで下にずらすとああああありがとうとわけのわからない返事をして私は走り去った。
そう、あの瞬間。


私は恋に落ちたのだ。


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