委員会が終わり、教室へと二人で戻った。
彼女はおそらくまっすぐ帰宅するのだろう。

「斎藤君は部活?」
「ああ。大会が近い。」
「うちの高校のエースだもんね!」
「そのようなことは…総司がいるからな。」
「沖田君も強いんだもんね。すごいなー…あ。」

何かに気づいた彼女の視線の先を辿れば窓の外に総司の姿が見えた。病院に行くと言っていたし帰るのだろう。しかし横に見慣れた後ろ姿もあった。あれは雪村か?

「千鶴ちゃんだよね。確か。」
「ああ。剣道部のマネージャーをしている。おそらく総司がちゃんと病院に行くように土方先生について行けとでも言われたのだろうが…。」
「ふふ。そうなんだ。」

月野は微笑んでいたがそれは悲しみに満ちたものだった。
並んで歩く二人の表情と雰囲気を見たら人の恋路に疎い俺でもわかる。あの二人はもしかしたら…。


「月野…。あんたは総司が…。」
「…あれ?気づいてたの?」


思わず口走った俺の言葉に彼女は動揺することもなくただ一瞬目を丸くしただけですぐに笑った。

「そんなにわかりやすいかな?」
「いや…そのようなことは。」
「うん。私沖田君のこと気になってた。多分好きなのかな。」
「告げないのか?」
「実はね斎藤君。私一年生の時、沖田君に告白されたんだ。」
「!」

総司からもそんなことは聞いていなかった。いや、もしかしたら聞いていたのかもしれないがその時の俺は関心がなかったのだろう。


「でもね、沖田君のことよく知らなかったから断ったの。しかも彼モテるでしょ?釣り合うわけないって思っちゃって。でも…。」

――それから彼のことよく見るようになって、いろんな表情を知って、優しいことを知って…気づいたら好きだったの。


段々と月野は視線を下げ、顔を下げて呟いた。


「何故、告げない?そこまで思っていて…何故。」
「意気地なしなんだよ、私。今さらって思っちゃって…それにもう、沖田君は彼女のことが好きでしょう?それに気づいたらもう無理だよ、斎藤君。」
「だが、あんたはそれで…。」
「嫌だよ?!」

涙交じりの声で月野が叫ぶように言った。手で顔を覆い下を向いている。
顔を見られたくないのだろう。

「でも、私が悪いから。気づくのが遅かった私が、勇気がでなかった私が、なのにいつまでも思っちゃう私が…悪いから。どうしていいかわからなくてでも目で追っちゃって、いつまでもこのままでいるわけにいかないのに。」

一歩一歩彼女に近づいた。俺が近づいていることに気づいているかはわからないが相変わらず下を向いたままだ。ぽたりと床を涙が濡らしている。

違う、俺が見たいのはそんな顔じゃない。俺はあんたに笑っていてほしいんだ。

「月野。」
「斎藤君?」

彼女の目の前に立ち名前を呼ぶと下を向いたまま、俺の名前を呼んだ。

「好きだ。」
「…え?」
「好きだ。俺は、あんたが。」
「斎藤君!?」

俺の告白に驚いたのか漸く顔を上げてくれた彼女の目には涙が溜まっていた。
一瞬躊躇ったがそっと目じりを指で拭うとぴくりと小さく彼女が動いたのを感じる。拒絶はされないようだ。

「私今…沖田君のこと…。」
「知っている。あんたが総司のことを好きだったことも。今も諦められないことも。いつも目で追っていたことも。俺もあんたを見ていたからだ。」
「あの、いきなり言われても、その…。」
「俺はいつまでも待つ。あんたの気持ちを尊重する。だから…少しは俺のことも見てくれないだろうか?」
「沖田君のことを好きじゃなくなっても、斎藤君のことを好きになるかわからないんだよ?」
「それでもいい。」
「でもそんなの…。」

俺は随分とずるい人間らしい。彼女が俺を拒絶しないとわかった瞬間、こんなにも強気になるのだから。

「それでもいいから、あんたの時間を俺にくれ。必ず…振り向かせて見せる。」
「っ!!斎藤君…そんな性格だった!?」
「さあな。あんたにはそうらしい。」

思わず口角が上がった俺に目をぱちぱちとさせて月野は驚いていた。でもすぐにいつものあの笑顔になる。

「ふふっ、斎藤君って面白いんだね。意外な発見。」
「これからもよろしく頼む。月野。」
「うん。斎藤君、ありがとう。」

まずは大会で優勝することを目指すか。ライバルより強いことを示さねばならぬ。その後は一緒に出かけようと誘ってみるか。まだ時間はたくさんある。



―悲しんでいるあなたを愛する―


(月野、俺と…その…映画でも行かないか?)
(デートってこと?斎藤君。)
(デッ!?)
(ふふっ。(あれ?この前は積極的だったのにいつもの斎藤君に戻っちゃった。))
(何故笑っている…(笑ってくれたのなら良いか。))


これからは俺がたくさん笑わせてやる。


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bkm
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