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『これ、受け取ってくださーーーーーい!!!』
『痛いっ!ちょっと何!?』
『あれ!沖田さん何で避けるんですか?』
『いきなり箱が飛んできたら避けるのが当たり前でィ…お前誰だ。』
『あの…私は…そのー。』
『いきなり人に物投げつけるたぁどういう神経してんだ、逮捕ー。』


いきなり小さな箱を投げつけてきた女、それがしずくの第一印象だ。
その日はバレンタインで巡察すりゃあちこちから受け取ってくれとチョコやら飴やらもらったもんだが投げつけられたのはそいつが初めてだった。ま、俺は避けて山崎がくらったんだけどな。

どうやらあの女は俺に一目惚れをしたらしい。
それもよくあることと言うと嫌味だと隊士連中には言われるが俺や土方クソヤローあたりは普段から手紙やらなんやら貰っていたから特に驚くこともなく、そしてその女も例外ではなく通常通り無視を決め込もうとしたが話はそう簡単じゃなかった。


…しつけぇ、半端なく。


「あ、沖田さん。んまい棒新しい味出たんですよ。食べます?」
「おー。」

いつも通り巡察さぼって公園のベンチに座っているとあいつは現れて当たり前のように隣に座った。最初こそ俺は無視していたしあいつが近付いてきたら避けていたがそれすら面倒になった。普通しばらく無視してりゃだいたいの人間諦めんだろ。あいつ諦めるって言葉知らねえよ多分。
あいつが箱を投げつけてきた日から半年もたたないうちに俺は普通に話すようになった。そして今に至る。

んまい棒を受け取りしゃりしゃりと食べ始めるとあいつはじっと俺を見ていた。

「おいしいですか?」
「コンポタの方がうめぇ。」
「それ言っちゃおしまいでしょ。」

あははと笑ってあいつもんまい棒を食べ始めた。…って何でお前はコンポタ食ってんだよ、そっちよこせよ。

「…わけわかんねえ奴。」
「え?」

ぼそりと呟いた言葉を拾われたらしくあいつはんまい棒を食べることをやめて俺の顔を覗き込んだ。

「何でもねえ。」
「変な沖田さん。」

今まで俺に告白してきた女はもっとミーハーというか黄色い声あげているような奴ばかりでこいつも最初はそれらと同じだと思っていたのに二回目に会った時からもうこの通りで前から知り合いですよってテンションで話しかけてくるもんだからこっちも無碍にできなくなった。
気がつきゃ町で会えば会話するし、たまに茶まで一緒に飲むようになってんだからどうなるかわかったもんじゃねえ。ただあれから俺達の関係が何か特別なものになっていないのが現実だ。

「さむっ…。」
「お前薄着すぎだろィ。」
「晴れてたからつい。」

手をこするように合わせた仕草に目を奪われた。ちっせえ手。少し荒れてんのは水仕事してるせいだ。こいつは定食屋で働いていた。

一目惚れ…っていうのはまあ百歩譲って認めるとして、その後もこうして俺と会って話しているのに何故こいつは俺のことを慕ったままなんだろうか。たいした会話もしねぇしこんな仕事してんだ。評判は最悪だろうにこいつの態度はずっと変わらず、俺を見つけりゃ近づいてきて楽しそうに話していた。


「お前。」
「何です?」
「まだ俺に対する気持ちは変わらねえのかィ?」
「変わらないどころかさらに好きですけど。」
「…。」

平然と言うかそんなこと。やっぱりこいつは筋金入りのバカだったか。

「こんなの好きになる奴の気がしれねぇよ。」
「私、あの時は一目惚れだったけど、今は全部ひっくるめて好きですよ?ご自分のことがお嫌いですか?」
「…俺ァ人殺しだ。仕事でも命奪ってんだ。そんな奴好きになれるわけが…。」
「沖田さん。」

しずくはどこから出したのかコンポタ味のんまい棒を俺に突き出して名前を呼んだ。

「あなたの気持ち全てはわからないけど、わかる努力はしたい。仕事は確かに特殊ですけど、なくてはならないものでしょう?」
「…。」
「私の目を通して見てくださいよ。私の目に映るあなたはとっても素敵な人ですよ?」
「お前…。」

筋金入りのバカはとことんバカらしい。かゆくなるような台詞を真顔で言ってくるなんてたいしたもんだろ。そしてそのバカが気になってしまった俺も似たようなバカだ。

「そう言えばもうすぐバレンタインですねー。…今年も作って良いですか?」

しずくは遠慮がちに聞いてきた。普段遠慮とかしないくせに変なところで確認をしてくるからこいつの基準はよくわからねぇ。

「今年は投げんじゃねぇぞ。」
「え?」

俺の返事が意外だったのか目をぱちぱちと何度も瞬きして口を開いたままのアホ面全開で俺を見ていた。

「ちゃんと手渡ししろィ。」

その目を見るのがなんとも気まずくて視線を逸らしてそう答えたのが精いっぱい。ただ小さく笑った声がして横目で見りゃ嬉しそうに笑ってるもんだから悪い気がしなかった。

「好きなもの作りますね。」
「おー。」

話しているテンポも互いの態度も一見変わらねえが確かに何かが変わった瞬間だった。これからはこいつの目に映る俺ってやつをゆっくりと教えてもらうとするか。





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