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はらりはらりと薄ピンクの花びらが舞っていて、空の青さに映えていた。
あちこちで飛び交う言葉は別れを思わせる寂しさを持っていて笑っているはずなのに泣いているように見える表情が今日は特別な日なんだなと認識させる。
少子化だなんだと言われていても卒業生だけで百人以上はいる高校だ。たった一人を探し出すのは難しい…はずなのに、自然とこの目はその人を見つけ出すのだからどうやら恋ってやつは偉大らしい。

「しずく先輩!」
「山崎君!」

枝垂れ桜の下で同級生たちと写真を撮っていた先輩は俺に気が付くと一人こちらへ歩いてきてくれた。その手には卒業証書。ああ、先輩はもう明日からここにはいないんだってわからせるようでまだ何も話していないのに涙が出そうになった。

「わざわざ挨拶しにきてくれたのね。ありがとう。」
「いや、あの、先輩…。これ!どうぞ!」

後ろに隠すように持っていたのは小さな花束だ。これを買うのも、学校に持ってくるのも、そして教室に置いておくのも死ぬほど恥ずかしかったけれど、どうしても先輩に渡したかった。少しでも先輩の今日という日に自分が残ったらそれだけで悔いはない。

「綺麗!いいの?すっごく嬉しいよー。ありがとう!」
「いえ、小さい花ですみません。」
「そんなことない。私花束貰うの初めてかもしれない。」

ふわりと笑って花束を顔の近くに持っていく先輩に鼓動が速くなる。

バドミントン部に入部して最初に話しかけてくれたのがしずく先輩だった。こんな俺に話しかけてくれただけで感動したのに、何よりも嬉しかったのは先輩は俺の名前を一度で覚えてくれたことだった。地味だ地味だと周りに言われ、さらにクラスメイトは華やかで個性的な人ばかりと少し落ち込んでいた俺には女神さまのように思えた。つまり先輩のことを好きになるのに時間なんてほとんどかからなかったわけで。でも何か特別なことができるわけでもなく、一生懸命部活に打ち込むだけ。お祭りや学祭などのイベントに誘えたことなんて一度もなかった。それを俺は今ものすごく後悔している。同級生ならともかく先輩は先にここを去って行ってしまうのに俺は先輩と何の思い出も作れなかったんだ。

「先輩、卒業しちゃうんですね。」
「うん。山崎君と会えないのは寂しくなるなぁ。バドミントンも一緒にできないし。」
「先輩は地元の大学でしたよね?」
「そうだよー。だからその辺で偶然会うかもね。無視しないでよ??」
「しませんよ!」
「良かった〜。」

あははと笑う先輩につられて笑いたいのに、どうしても笑えない。先輩がいなくなってしまうなんて信じたくない。

「先輩、卒業…しないでください。」
「え?」
「あ!いや!違います。卒業おめでとうございます。」
「うん。…ありがとう。」

ひらりと桜の花びらが先輩の持つ花束に落ちた。そっとそれを摘んだ先輩は花びらを俺の手にのせる。

「山崎君、桜の花言葉知ってる?」
「知らないです。」
「優美な女性とか、心の美しさとか色々あるんだけどね。」
「桜らしいですね。」
「私を忘れないで。」
「え…。」

そう呟いた先輩は少しだけ悲しそうで、困ったように眉が下がっていて。それが俺の背中を思い切り押すように見えたんだ。

「そんな花言葉もあ…。」
「先輩!」

俺の手から離れようとする先輩の手を追うように掴んだ。しっかりと両手で握りしめて白くて華奢な手を見つめる。

「俺、先輩のことが好きです!今まで部活しかしてなくてそれらしいことは何も伝えられなかったけれど…ずっとずっと好きでした!!!」

恥ずかしいとかこの後どうしようとかそんな考えが少しもなかったと言ったら嘘になる。だけどここで伝えなかったら俺は一生後悔するってことだけはわかっていたから。

「好きです、先輩。卒業しても頑張ってください。」
「山崎君。」

離そうとした手を今度は逆に掴まれた。さっきまでは勢いがあった俺も先輩の行動に一気に弱気になってしまう。顔に熱が集まり目もどこを見ていいのかわからなくて完全に泳いでいた。

「私のこと好きって言ってくれたのにもうサヨナラなの?」
「え?」
「卒業したらその気持ちは消えちゃうの?」
「消えません!」
「じゃあ卒業しても頑張ってなんて他人行儀な挨拶はやめてよ。私も山崎君のこと好きだよ。」

そう言うと先輩はカバンから携帯を取り出して俺に突き出す。俺も慌ててポケットから携帯を取り出した。

「ちゃんと連絡先交換してなかったね。不思議。」
「あああああの、先輩?」
「私明日から春休みだけど山崎君学校だもんね。次に会えるのは土日かな?予定ある?」
「ないです!ないです!」
「じゃあ山崎君、私と会ってくれますか?」
「…。」
「山崎君?」
「先輩、これ夢じゃないですよね?俺、寝てるわけじゃないですよね?もうすぐ頭叩かれて目が覚めたら銀八先生ってオチじゃないですよね?」

連絡先を交換している現実が信じられなくて、何より先輩と思いが通じ合ったなんてこれ明日地球終わるんじゃないの?
相変わらず挙動不審状態の俺の頬に先輩の手が触れた…と思ったら優しく抓られる。そんなんじゃ痛くなくて夢だと思っちゃいますよ先輩。

「ほら、夢じゃない。」
「…先輩、好きです。」
「山崎君は意外と大胆だなぁ。」

笑う彼女の手をしっかりと握り、俺達は一緒に桜を見上げた。
彼女との最初の思い出は少しだけ切ないけど嬉しい桜色の卒業式。




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