bookmark


人はイベントが好きだ。お正月から始まり節分にバレンタイン、ホワイトデーが終わったら花見をしてゴールデンウィーク満喫したらその次は夏休み、秋は紅葉狩りしてすぐにクリスマスが来たと思ったら年末。そう、年末なう。町もテレビも浮かれに浮かれてるこの季節は嫌いじゃないけどそれは自分も休めたらの話。

「副長…お疲れ様でした。」
「おう。」

屯所で女中の仕事をしている私はいつもだったら定時に上がって帰っているところだけど今日は違う。隊士の皆さんは普段から交代で夜勤もこなしているけれど年末年始はさらに厳戒態勢になるため通常より夜勤者も多く夜中に夜食を準備しなくてはいけないので女中も交代で夜勤に入ることになる。しかし女中のほとんどはおばちゃんだ。夜はきつい、家族がいるなどなどの理由で私が夜勤に当てられることが多かった。まぁいいんですけど。
今日は大みそか。夜食は蕎麦でほとんどの隊士さんは食堂で食べているんだけど局長、副長は自室で仕事をしながら食べるとかで私が運んでいた。

「局長いないんですけど…ストー、げふん。意中の女性のところでしょうか?」
「近藤さん…今日は外に放り投げられたら凍死確実だぞ。」

局長が部屋にいないことを告げると額に手を当てながら携帯をとりだした。だいたい結末はわかる、今からおそらく山崎さんに電話をかけて回収作業をお願いするはずだ。余計な仕事が増えて可哀想だ山崎さん。


「お蕎麦ですよ。マヨかけておきました。」
「すまねぇな。お前もう終わりか?」
「はい!といっても他のおばちゃんと今日は泊めていただきますけど。」

今日は泊まり込みの予定だったから荷物もしっかり持ってきている。一部屋を借りて何人かで寝ることになっていた。

「すぐ寝るか?」
「いえ…ここまで起きてたらカウントダウンして寝ます。テレビも見たいです。」
「よし。休憩室行くぞ。」
「はい?」

マヨたっぷりの特製蕎麦の丼を持ったまま土方さんは立ち上がる。私も立ち上がるのを確認すると彼は部屋を出て休憩室へと歩き始めた。とりあえず置いてかれないようについていく。休憩室からはテレビの音が聞こえていて時々笑い声がした。土方さんが襖を開けるとそこには沖田隊長と斎藤隊長がこたつに入ってテレビを見ているところだった。二人は今夜の夜勤を免れたのだろう。リラックスモードである。

「土方さん、犬の餌見せつけてくんのやめてもらいやせんかねェ?食べたみかんをリバースしそうでさァ。ちょ…土方さんその丼貸してくだせェ。」
「おいィィィィ!人が今から食べようとしてるもんに何とんでもねぇもんかけようとしてくれてんだァァァ?!」
「大丈夫でさァ。すでにマヨまみれで蕎麦なんて原型留めてないんで。リバースしたもんかかっても見た目たいして変わらないんで。」
「かーわーるーから!」

毎日よく飽きないで言い争いできるなこの二人と思いながらこたつの空いたスペースに座る。斜め前に斎藤隊長が座っていたので会釈すると向こうも頷いてくれた。そして無言でみかんを差し出してくれる。ありがとうございました。みかんの皮をむいていると隣に勢いよく土方さんが座って斎藤隊長の向かい側に沖田隊長も座って落ち着いた。

「しずくさん今日泊まり込みでしたっけ?」
「はい。もうお仕事終わりですけど。」
「なんでまたここに?」
「え?あー…お邪魔ですかね?」

もぐもぐとみかんを食べながら沖田隊長は私に話しかけてきた。何でここにいるの?っていうのは別に悪気があって聞いたわけではなく本当に何でいるんだろうって疑問に思ったんだろうな。わかるよ、だって私も何でここにいるんだろうって思ってるもの現在進行形で。


「俺が呼んだ。」
「…へぇ。」


ずるずると蕎麦をすすりながら土方さんが答えると沖田隊長が一瞬悪い顔をした…気がしたんだけどすぐに小さく返事をしてテレビに視線を戻した。

「土方さん。」
「あ?」
「どうして私ここにいるんですかね?」

土方さんが箸を丼に置いた。どうやら蕎麦は食べ終わったらしい。こたつの中央に積まれているみかんに手を伸ばして向きながら口を開く。

「年越しといえばこたつにみかんだろ。」
「はい。」
「お前らが寝る部屋はどっちもねえぞ。テレビはあるだろうがおばちゃん達は紅白見てるだろうし、お前バラエティ見たいんじゃねえの?」
「その通りでございます。」
「じゃあここの方がいいじゃねえか。」

さすがフォロ方さん…私にもフォローしてくれてる!鬼の副長なんて言われてるけど本当はすっごく優しいんだよこの人。

でも本当勘弁してほしいな。わかっててやってるの!?ねえ!私、あなたに惚れてるんだよ!?さっきの沖田隊長の顔見た!?土方さんが私をここに呼んだという事実に浮かれて舞い上がりそうな気持ちを押さえこんで普通に振る舞っている私をニヤニヤと見ていたあの顔を!!!ちくしょう、何で気づいてるんだよあのドS!!!

「ほれ、あと少しでカウントダウンだ。頑張って起きてろよ。」
「…はい。」

眠くなるわけないじゃないですか。心臓バクバクだよ!正直毎年涙出るぐらい笑いまくってるバラエティ見てるとは思えないぐらい表情筋動いてないよ。全然内容入ってきてないよ!!!アウトなのは私だよ!!!


「茶持ってこよ…。」
「え?私淹れてきますよ?」

自分の湯呑を握りしめて沖田隊長が立ち上がるのを私は引き留める。だってそんなの私の仕事だろうし。

「もう勤務時間外だろィ?しずくさんのも持ってきてあげまさァ。終兄さん手伝ってもらえます?」
「Z…。」
「え!?」

沖田隊長は私に立ち上がることも許してくれなかった。まるで紳士のようなセリフだったけれど顔が全く紳士ではなかった。あれは悪魔だ。俺達が席を外している間にどうにかこうにかしておけよ、できればおもしろい展開を期待するぜ的な。

「珍しいこともあるもんだな。」
「…はひ。」

いや、珍しいとかじゃなくて、通常運転です。

「のんびりと年末年始を過ごしてみてぇもんだな、いつか。」
「そんな日が一日も早く来ることを祈りますけど…難しいですよね。」
「お祭り騒ぎしてる奴らがいるときは事件が起こるからな。」

二つ目のみかんに手を伸ばした副長の目の下にはくっきりと隈ができている。ここ数日まともに寝てないんだろうな。私、何かできないかな。

「あの…副長。」
「来年もその次も、俺らはずーっとこんなんだ。」
「え?」
「でもまぁ、こたつにみかんぐらいは用意してやれる。」
「はい?」
「俺としてはそれにプラスしてお前がいてくれりゃ別に年末年始に休みがなかろうと、なんだろうと構わねえんだけどな。」
「…。」

え?
え??

「おい、何とか言え。」
「え?あの?え?」

思い切り横を見ればほんのりと頬を赤くしてテレビを見つめている副長がいて、さっきの言葉の意味が私の勘違いなんかじゃないことを知る。


「あ、あの…!」
「土方ァ〜アウトォ〜。」
「「え?」」

返事をしようとした瞬間、勢いよく襖が開き竹刀を持って手をぺちぺちしている沖田隊長と控えめに構えている斎藤隊長がいた。

「わかりにくい告白でしずくさんが困ってまーす。アウトォ〜。ケツ叩きでィ。」
「おい!総悟!待て…ぎゃああああああああ!」
「Z…。」


ケツ叩きと言ったくせに頭狙ってるあたりがさすが沖田隊長というか…斎藤隊長隣で見てるだけだし。相変わらずのバカ騒ぎにいつの間にか日をまたいでいてカウントダウンはできなかったけれど、来年は二人でできますかね…?副長。






prev|next

[戻る]
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -