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真選組に初めて電話をしたのはもう半年も前のことだ。私が働いている茶屋の近くでもめ事があったからだ。女の人が男の人にしつこく絡まれ…というのはここかぶき町ではよく見る光景だったのだがその時は違った。女の人の鉄拳制裁により男の人が地に埋まりかけていたので慌てて通報したのだ。しかし真選組の反応は何とも鈍いものでそのうち回収にいきますとだけ告げられた。回収って何?と思いつつ被害者を見ればなるほど、真選組の隊服を着ていたからどうやらこれは一度や二度のことではないのだなと遠目から見守っていた。

そしてそれが近藤局長だということも、彼がストーカー行為よろしくキャバ嬢に入れ込んでいることも迎えにきた隊士によって知ることになる。



「こんにちは。」
「あ、山崎さん、いらっしゃいませ。…回収ですか?」

私がそう言うと彼は苦笑いを浮かべて頷いた。そして彼はいつも通り、窓側の席について外を眺める。私がお茶をだすと彼は微笑んでそれを受け取り、メニューを見て草餅を頼んだ。

「そろそろ近藤さんいらっしゃいますかね?」
「そうだねぇ…いつものことだから。」

近藤局長は意中の女性をつけまわ…護衛しているそうで、彼女が店にくる頃に花やらプレゼントを持って突撃している。そしてぼこぼこにされて山崎さんに回収されているのだ。本当はぼこぼこにされる前に回収したいらしいんだけどそれを言っても局長が聞くわけがないと半ば諦めてうちの店で一部始終を見ながら待機している。

「いつもごめんね。」
「え!?いえいえ、山崎さんは悪くないですし、こうしていつも注文していただいてるのでうちとしては何も…。」
「いや、いつも目の前で惨劇が繰り広げられててトラウマにならないか心配だよ。」
「…あはは。」

確かにあの二人の喧嘩(一方的に殴られている)はなかなか目を逸らしたくなるレベルだけど私はずっと見ているわけじゃないしそれに…。

「草餅すぐお持ちしますね。」
「ありがとう。」

私はあなたと話せるようになって幸せだから。
半年前、真選組に通報して良かったと心から思ってる。山崎さんと出会えてこうして話ができるようにもなった。優しくてなんでも話せる雰囲気の彼に惹かれたのは出会ってそう時間がたたない頃だった。それからはずっと片思い。近藤さんにはこれからも頑張ってほしいなんてキャバ嬢さんからしたら迷惑であろう願いを抱えている。

注文された草餅を皿にのせて運ぶとどうやら外でいつもの光景が繰り広げられているようだ。

「あー…姐さん、今日も本気だな。」
「近藤さんめげませんね。」
「本当だね。そろそろどっちかに諦めてほしいところだなぁ。」
「でもあの方すごいです。私だったら毎日のように好きだと言われたら…すぐに絆されてしまいそう。」
「え?」

私の言葉に山崎さんが外から視線をこちらへ移した。少したれ目がちな優しい目に自分がうつって心臓がはねる。

「あの女の人のように美人だと色々な方から言われるのかもしれませんけど…私はあのような経験ありませんから好きだよってずっと言われたら好きになっちゃいそうだなって。もちろんストーカーとかは怖いんですけど…近藤さんはほら、根は良い人ですし。あんなに思われるのって幸せだなって。」
「…そうなの?」
「好かれて嫌な気分にはならないですよ。」
「そっか。」

テーブルに置かれた草餅に視線を落とした山崎さんは少し何かを考え込むような表情になる。

「ねえ、しずくちゃん。」
「はい?」
「好きだよ。」
「…え!?」

視線がぶつかる。息が止まる。
山崎さんは今、何て言ったの?

「局長を連れて帰るだけなら別にここに毎回くる必要なんてないんだ。…でも俺が君と話したかったから…その…通ってました。」
「山崎さん…。」
「好きです!」

どんどん顔を赤くしていく山崎さんにつられて私もきっと赤くなってる。一生懸命伝えてくれているのがわかってドキドキして、たまらなくて、言葉にできない。

「いきなりこんなこと言われても困ると思うけど…。また明日言いに来るから!」
「え!?」
「毎日でも言いに来るから!だからそのうち…絆されてください。」
「山崎さん!」

耐えきれなくなったのか山崎さんは立ち上がるとお金をテーブルに置いて走るように店を出た。窓の外を見れば道に倒れている近藤さんの所へかけよりキャバ嬢さんと何か話をしている。そして近藤さんを引きずるようにその場を去っていった。

「言い逃げはずるいですよ…。」

明日も本当に来てくれるのだろうか。絆されるどころかもうすでに好きなのに。追いかけることもできないじゃない。

私もずっと好きでしたと明日告げたら彼はどんな顔をしてくれるのだろう。にやける顔をぺちりと叩いて私は仕事へと戻っていった。







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