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「いらっしゃいま…お帰りください。ここにはお金のない人が食べるパフェはございませんので。」
「ちょっと待ってェェ!お金あるから!今日はあるからァァァ!」
「…こちらの席へどうぞ。」

あれ?今軽く舌打ちされたよね。銀さんすでに泣きそうなんだけど。心折れそうなんだけど。案内された席に座り彼女が水を持ってくるのを目で追いかけた。今日も相変わらずのポーカーフェイスだ。

近くのファミレスに頻繁に通うようになったのはここ一ヶ月。バイトをしているしずくに惚れてしまったからだ。単純だろ?
そりゃ銀さんもさすがにこの年で一目ぼれとかありえないーって最初は思ったよ。がんがん壁に頭打ち付けて落ち着こうとしたよ。でもなんか忘れられなかったんだよな、しずくのことが。

ファミレスでは当たり前の営業スマイルを一切見せず、常に無表情で、でも真面目に仕事をしていたしずくを何故か目で追っていた。不愛想だなーと思ってたんだけどあまりにも自分が目で追い続けているからあれ、これ俺気になってんの?あの子のこと気になっちゃってんの?とか思い出したら最後、あっという間に落ちてった。

まぁそれからは早いよ。銀さんも大人だからね。ちょこちょこと通っては声をかけ、最近では彼女になってくださいってドストレートに言ってるよ。もちろんシカトされてるけどね。あれ、また涙腺緩んできたなぁ。

いやいや、でもまだ脈あるよ。だって最初は完全無視だったけど最近は一言二言会話してくれてるもん。おかげさまでしずくのこと、少しはわかったんだよ。

俺と真逆で辛党ってこと。酒好きなのは俺としても喜ばしいけど甘いものはほとんど食わねえんだと。辛いもののほうが好きって言われて少しへこんだ。だって一緒に甘味巡りしたいじゃん。デートしたいじゃん。

「ご注文は?」
「スペシャルパフェ、生クリーム大盛りで。」
「そういうのないです。」
「そこはしずくちゃんの力でなんとか。」
「少しは甘いもの控えたらどうですか。ということで注文繰り返します。ハンバーグランチ、サラダバーつきで。」
「ちょっとォォォ!全く違うから!かすりもしてねえから!!!」
「…スペシャルパフェで。」

しずくはそう言うとさっさと厨房の方へ行ってしまった。次は持ってきてくれるときかなぁ。何話そうかなと考えてパフェがくるのを待つ。
数分もすればパフェが運ばれてきて俺は喜び勇んでパフェにスプーンを突き刺した。いつもならさっさと行ってしまうしずくがその様子を見て眉間に皺を寄せている。

「どうしたの?食べる?」
「いりませんよ、甘いもの好きじゃないし。」
「だよねぇ。…でも見てるからさ。」
「よく食べられるなと思っただけです。」
「最高にうまいじゃん。これが美味しくないなんて人生損してらぁ。」
「少しは食べられますよ。」
「なぁ、今度一緒に団子屋いかね?甘さ控えめなのもあるし。」
「…銀時さん。」
「!」

え、今俺名前呼ばれた?いや、もちろん自己紹介はしていたよ?万事屋の名刺も押し付けてたけどよ。今まで名前を呼ばれたことなんて一度たりともなかったぞ!?

「何で私を何度も誘ってくれるんですか?」
「そりゃ俺がしずくちゃんのこと好きだからでしょ。」
「何で私ですか?不愛想ですし、女らしくないし、特別可愛くもないです。」
「俺からしたら一番可愛いけどねぇ。」
「…そういうのよく平気で言えますね。」

眉間の皺をさらに深くしてしずくは俺に言う。ああ、そんな顔したらもったいない。少し笑ってみせりゃだいぶ可愛いと思うんだけどな。

「正直俺はこんなこと言うの得意じゃねえよ。好きとか可愛いだの普段は言わねえし、恋人になったらなかなか言わねえだろうな。」
「じゃあ何で。」
「言わないと伝わらねえだろ?しずくちゃんとは会える時間限られてるし…冗談だと思われるのも嫌だからな。」
「…。」

俺がそう言うと彼女は俯いてぎゅっと拳を握っていた。いつもと違ってこんなに長く会話していることに舞い上がりそうになるのを必死に抑え込む。多分しずくは何かを俺に伝えたいだろうから。

「私、甘いものそんなに好きじゃないので私といる間はなるべく食べさせませんよ。」
「え?」
「徹底的に管理しますよ。」
「え!?ちょっと待って!銀さん死んじゃう!!」
「死にませんし、甘いものの取りすぎのほうが糖尿病になって寿命が縮むじゃないですか。」
「しずくちゃん?」
「私、好きな人には長生きしてもらわなきゃ嫌です。」
「え…え?え??」
「仕事に戻ります。」
「えええええ!?」

ちょっと待ってェェ!!色々ついていけないんだけどォォォ!
何であの子また無表情で仕事してんの!?とんでもない爆弾落としていったよね!?銀さんの頭爆撃してから素知らぬ顔で去っていったよねェェ!?

甘いものは好きだし、これからもきっと全く食べないなんてありえない。甘いもの食べられなくて長生きするより甘いもの食べて短く生きる方がいいって思っていた。でも。

「…管理されんのも悪くないかなぁ。」

とけかかっている目の前のパフェを何故か口に運ぶ気がしなくなった俺は別の注文をしようとしずくを呼んだ。
とりあえずは…ハンバーグランチとサラダバーで。






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