bookmark


拝啓お母様。
私は江戸で何とか生きています。仕事もそれなりに楽しいし自炊もおかげさまでちゃんとできています。これは本当にお母様に感謝しております。え?してますよ、嫌々やっていた家事も家を出れば役に立つんだなーと思いましたよ。え?ああ、彼氏?ほら、そんなすぐにできるわけ…もう江戸に行って何年たつんだって?そりゃ三年たちましたけど。でも仕事でよく言うでしょう。三年ぐらい働いてようやく一人前だって。だからこの三年は仕事に費やしていたのです。恋はこれから!これからだから!!!


「お見合いなんて誰がするかバカヤロォォォォ!!!」


画面が粉砕するんじゃないかという勢いで親指を押し付け無事母親へメールを送ったのが五分前。最後の叫びはもちろん書いてない。書いてたりしたら殺されるじゃん。
その後母親からの着信は華麗にスルーしている。だってお昼休み終わっちゃったらご飯食べられないもの。とりあえずは食事優先。ということで私はいつもの公園のベンチでお弁当を広げていた。
会社から歩いて三分。少し広い公園は親子連れが遊んでいたり、子供たちが野球をしていたり、サラリーマンが新聞を読んでいたり、グラサンの人が転がっていたりしていた。


「いただきまーす。」


誰もいないけれどつい言ってしまう習慣を終えて私はお弁当に手をつけた。小さいころから料理を叩き込まれていたおかげで我ながらおいしそうなお弁当だ。母曰く、男は胃袋を掴むべし…だそうで。


「今時胃袋掴んだぐらいじゃねぇ。」


ぱくりと卵焼きを口にいれて呟いた。だって今は外食もできるしコンビニのお弁当だってそこそこおいしいもん。やっぱり男の人は見た目がいい人に目が行くと思います、母上様。


「ねぇ、それ何?」
「おにぎらず…ってえ??」


私は明太マヨのおにぎらずを口に持っていこうとしていたのだがいきなり後ろから声がして思わず返事をしてしまう。振り向けばオレンジ色の髪の男の人が立っていた。ニコニコしているしおそらくカッコいいんだけど…何いきなり怖い。


「それ、おいしい?」
「…多分。」
「多分って何。君が作ったんじゃないの?」
「だから、多分です。あなたのお口に合うかはわかりません。」
「おにぎりと違うの?」
「にぎってないからおにぎらずです。」
「ふーん。」

彼はそういうと私の隣にドカッと座った。そして私の手にあるおにぎらずをじっと…そう、じーーーーっと見ている。
これ、もう、あれだよね。食べさせろってことだよね。やだ、今時のイケメンはこんなカツアゲの仕方なの?じっと見てればもらえると思うなよ。


彼の視線に耐えながらもそのまま食事を続けようとしたらがしっと手首を掴まれた。痛い…地味に痛い。え?何この力。私一応女子なんだけどこんなに強く握る?ってか痛いとか言うレベルじゃ…。


「痛い痛い痛い痛いぃぃぃぃぃ!!!」
「あ、ごめん。地球人はか弱いんだった。」


手形ァァァァ!!!私の手首にくっきり手形ァァァ!こいつどんだけの力こめてたんだよ!涼しい顔してまじでやばい人!?地球人って言ってたけどまさか天人!?

「それ、食べさせて。」
「お断りします。私のお昼御飯です。」
「殺しちゃうぞ?」
「どうぞお食べください。」

やっぱりやばい人だ!!!私はおにぎらずを彼に渡すと少し距離をとった。といっても逃げ出せない。なんか逃げちゃいけない気がしている。

「それ全部君が作ったの?」
「はい。」
「へぇ。」

これはまさかのあれか。弁当よこせよこのやろー的な?…仕方ない、今日は会社に置いてあるお菓子で我慢するか。
私はすっと弁当を彼に渡すと彼は目を丸くした。

「食べていいの?」
「どうぞ。」

すると彼は驚くべきスピードで弁当を食べていった。どんだけお腹すいていたのと聞きたいけど聞く暇もないぐらいすごい勢いだった。見ているこちらが気持ちいいぐらい。

「美味しかった。ちょっと足りないけど。」
「人のお昼奪っておいて文句言います?普通。」
「お姉さんお見合いするの?」
「は??」

こいつ…マイペースにもほどがあるだろ!!!

「なんでですか?」
「さっき見合いなんてするかばかやろーって大声で叫んでたじゃない。」
「…聞いてたんですか。」
「公園中に響いてたと思うけど?」
「ぐっ…。」

恥ずかしい。穴があったら入りたい。勢いとはいえ公共の場で叫ぶべきではない。もしかして叫んでなかったらこの人に会うこともなかったんじゃないの?

「母が、彼氏がいないなら見合いをしろって言うんです。嫌ですけど。」
「ふーん。」
「心配なのはわかるけど結婚相手ぐらい自分で決めたいんです。」
「ねえ、お姉さん。名前なんていうの?」
「本当にマイペースだな!君は!!!しずくですけど!?」

もうどうにでもなれと自分の名前を伝えると彼は立ち上がって私の前に立った。相変わらずの笑顔で黙っていれば本当にかっこいいと思うけど残念すぎるイケメンって呼ぶことにする。

「神威。」
「は?」
「俺の名前だよ。」

何この人、私が残念すぎるイケメンって名づけた瞬間に名乗ってきたけどまさか心までよめるの?聞こえてるの?殺されるの?

「今度はもっとたくさん作ってきてよ。おにぎらず。」
「え?」
「またね、しずく。」

そういうと彼は背を向けて歩き出した。手をひらひらとふりながら。

ちょっと待て。またねって何だ。あいつまた私の昼ご飯を奪う気か。名前以外何も知らないやつになんで私が。


「しずく〜。」

数メートル離れたところで神威が振り向いた。私の名前を呼ぶその顔は相変わらずの笑顔。マイペース野郎はこの後さらにごーいんぐまいうぇいな発言を残すのである。


「お見合いしないでねー。しずくのご飯は俺のものだからさー。他の奴にあげたりしたら殺しちゃうぞ。」


それだけ言うと彼は公園から出ていった。
何今の。
え?何、どういうこと??




拝啓母上様。
先ほどは電話にでられなくてすみませんでした。いろんなことがあったんです、この三十分ぐらいの間に。とりあえず…彼氏はいないんですけどイケメンにお見合いしないでと言われたのでお見合いはやはりできません。それから胃袋を掴むべしというのもあながち間違っていないのかもなと思いました。でもそれ、好きな人にだけでいいです。変な人の胃袋掴むと厄介です。あ、仕事戻ります。


ピッと画面に触れて送信完了の文字を見ると携帯をポケットにしまった。また着信がきているのが振動でわかるが無視しよう。


「…久しぶりにレシピ本でも買うか。」


そう呟いて私は会社へ帰る前に本屋へ寄るのだった。
あんなに美味しそうに食べられると…ね。





prev|next

[戻る]
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -