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静かな部屋の中で聞こえるのは時々お茶をすする音とぺらりぺらりと銀ちゃんがジャンプをめくる音だけだ。神楽ちゃんはそよちゃんと遊びに行くと定春にまたがって飛び出して行ったし新八君は親衛隊の活動があるとかで今日はお休みしている。特に仕事もないのだから私もどこかへ出かけたい気持ちもあったんだけど無理だなと思ったんだよね、ジャンプ読みながらソファに転がっているダメな大人を見た瞬間にうふふあははなデートの予感は音を立てて崩れ去ったからね。

銀ちゃんと付き合ってもう二年が経過していた。自分でも驚いた。記念日なんてものに興味がない彼は気づいているか知らないけれど今日で二年なんですよ。そうなんです今日なんです。多分だけど本当多分だけど神楽ちゃんも新八君もわかっていてあえて二人きりにさせてくれているんだと思うんだよね。あの子たちものすっごく空気読めるから。だけど当の本人は鼻ほじってジャンプの感想を時々言うだけなんだよ、報われないよほんと。

銀ちゃんも付き合いだした時はもう少し甘い雰囲気があったと思うんだ。

暗くなれば確実に送ってくれたし…まぁこれは今私が一緒に住んでいるからできないんだけど。時々お菓子とか買ってきてくれたり、仕事でお金に余裕があるときは簪をくれたこともあった。まぁ釣った魚にエサはやらないとまでは言わないけどそういうこともなくなったな。

でも、それでも一緒にいるのは銀ちゃんのことが好きだからだし、銀ちゃんからも私に対する優しさだの思いだのは失われていないと信じているからだ。銀ちゃんはぶっきらぼうだけど私のことをよく見ていてくれる。体調を崩した時も一番に気づくのは銀ちゃんだし、考えていることもだいたい読まれてしまう。つまりそれだけ私のことを見てくれているってことなんだ。だから…。

不安に思うことなんてない。

本当はなんとも思っていないのかなとか。
飽きちゃったのかな?とか。
暗いことなんて考える必要ないんだ。よりにもよって記念日に。
いくら私がじっと見ていても知らん顔でジャンプを読んでいる憎たらしい天パ野郎にこの思いが届かなくても。

不安に思うことなんて…何一つないんだ。


「おーい。しずくちゃん。」
「!?」

ソファに転がっていたはずの天パ野郎はいつの間にか目の前にいて、かがむようにして私の顔を覗き込んできた。

「何泣いてんだよ。」
「え?」

私の横に腰をおろしぐいっと頭を引き寄せるようにして自分の胸に押し付けた銀ちゃんの表情は見えないけれどどうやら私は泣いていたらしい。本当だ、頬が少しひんやりする。

「ジャンプに夢中になって悪かったけどよ、お前もかまって〜とか言って来いよ。何か別のことしてると思うでしょうが。」
「いや…あの…。」
「で、なんで泣いてんの。」
「それが、私にも何がなんやら…。」
「はいうそー。」

わしゃわしゃと頭を撫でられて髪が乱れるのがわかった。でも今は抵抗する気にもなれない。だってこうしてのんびりくっつけるのが嬉しいから。普段は神楽ちゃんや新八君もいるしなかなかゆっくりくっつける時間もないし、さっきも思っていたけれどもう二年もたつとラブラブ甘々というわけでもない。そういえば久しぶりにくっついた気さえする。


「お前のことだから寂しいとかかまえとか一人で勝手に考えてたんだろ。」
「それは…。」
「銀ちゃんはもう私のことなんてどうでもいいのかなー?とか、飽きちゃったのかなー?とか思ってたんじゃねーの?」
「う…。」

そこまでわかっているならなんとかしろ天パ!!!という気持ちをこめて銀ちゃんのお腹に一発グーをいれると予想外だったのかうっと低い声をあげて銀ちゃんが固まった。

「いってぇ!!お前!なんでいきなり殴ってんの!?俺何も悪いことしてないんですけどぉぉぉ!!!」
「だって!わかってるならなんで!!!」
「あーーー。わかってるわかってる!今日はあれだろ。そのー…二年目なんだろ?」
「覚えてたの!?」
「…いや、正直忘れてた。でも神楽と新八に言われて思い出した。何もしないつもりなら殴る(殺す)って神楽に言われてよ…。」

ああ、銀ちゃんらしい。そしてやっぱり二人は気づいていたんだ。あとでお礼言わなきゃ。


「俺がそういうのこだわんねぇの知ってるだろうし何もするつもりはなかったんだけどよ…。でもお前最近考え込んでることが多かったろ?」


みんなで騒いでいるとそうでもないんだけど一人になったり、静かになると時々暗いことを考えていた。そろそろ振られるのかなとかいつまでこんな楽しい時間が過ごせるのかなとか。やっぱり気づかれてたんだ。


「お前ならわかってると思ってたから言わなかったけど。」
「?」

頭を起こそうとした瞬間、強い力で押さえ込まれた。銀ちゃんの肩の所に頭を預けたまま動けない。銀ちゃんの顔が見たいのに。

「どうでもいいとか思ってたら一緒にいねえし、さっさと別れんだろうが。それに飽きるってお前…自分の家族に飽きたこととかあんの?」
「家族??」

自分の家族に飽きる?家族に飽きるなんて感情が生まれること自体考えたこともなかったんだけど…。っていうか私と銀ちゃんは赤の他人…え?

「俺はお前のこともう家族だと思ってんだよね。あ、あれよ?女として見てないとかじゃねえよ?もちろんバリバリ女として見てまーす。なんなら今から一発…げふぅぅぅ!!!」

なんだか昼間から破廉恥な発言が聞こえてきたから思わず左アッパーが炸裂してしまったけれど…つまり銀ちゃんは私のこと、もう家族みたいに思ってくれてたってこと?

「もう二年経つし?お互いいい年ってことで。」

銀ちゃんはそう言うとどこから取り出したのか小さな包みを私にくれた。中を見ると可愛らしい櫛が入っている。

「可愛い!!」
「…お前ね、櫛を贈るのがどういう意味かわかってねえだろ。」
「どういう意味なの?」
「…言わせんなよ。」

手で顔を覆ってる銀ちゃんの耳が少しだけ赤くなってて胸がきゅんとした。私は櫛を机に置き、銀ちゃんの袖を掴むとくいくいと引っ張った。

「言ってよ、銀ちゃん。」
「結婚してくれってことだよ。」

二度と言わねえ!!!って思い切り叫んで私を腕の中に閉じ込めたのは赤い顔を見られたくないからでしょう?二度と言わないも何も一度聞ければ十分だよ、銀ちゃん以外と結婚する気なんてないし、別れてなんてあげないんだから。

だからお願い。
ほんのり赤い顔、ゆっくり見させてよ。そして久しぶりに甘い甘いキスをしてよ。
私が二度と、暗いこと考えないようにさ。




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