「はじめー!!」
「うるさい」
「ひどい」

どんなに冷たく返事をしようが目も見ずに話そうがこいつはいつも笑っていた。去年同じクラスになってからというもののどういうわけか近くにいつもいて総司の言葉を借りればつきまとわれているというやつだ。

「今日の数学意味わかんなくない?私もう開始二分でごーとぅーへぶんだった」
「意味は理解できたしへぶんとやらへ行っていたら何故帰ってきた。そのままそこへとどまっていてくれ」
「わーお辛辣ぅ。ほんと一は冷たいなぁ」

カラカラと笑いながら自然と俺の隣を歩く雫にもう違和感すらない。帰り道が同じ方角だったのが運の尽き、こいつは毎日のように俺についてきた。

「ねぇねぇはじめ」
「なんだ」
「好きだよ」
「そうか」
「はじめは?」
「特に何の感情もない」
「えー未だに何もないの?なんかあるでしょ、毎日懲りずに告白して偉いとか、毎日横にいてかわいいとか、毎日見てて飽きないとか」
「あんたがほしい答えばかりじゃないか」
「ちぇー」

道端の石ころを蹴飛ばしながら口を尖らせる仕草に実はこっそりと笑っていることをこいつは知らない。
そもそもこいつは何も知らない。

俺が良い感情を持ちもしない奴と毎日帰るはずがないこと。
俺が何の感情もない奴の告白を毎日聞くはずがないこと。
俺がいつその告白に今までとは違う返事をしようかと考えていること。

こいつは何一つ知らない。

「でもそろそろおしまいかなぁ」
「何がだ」
「告白も、このストーキングも」
「…ストーカーの認識があったのか」
「あるよー。だけどそろそろ迷惑かなって」
「…」
「だから今日でこれをやめ…」
「るな」
「やめ?」
「るなと言っている」

立ち止まってそう言えば隣にいたあいつは目を丸くしてこっちを見ていた。いつもへらへらしているくせになんだその顔は。

「いつもあんたは俺のことを好きだなんだ言って自分のことは何も語らない。だから俺にはあんたの情報が足りない」
「ええ…とぉ」
「こうして帰りは毎日隣にくるくせに最近昼間はほとんど来ないではないか。それではあんたのことがわからない」
「それは」
「あんたの好きなものが俺ということしか俺は知らない。それではあんたの返事にきちんと応えられない」
「おおふ…こんな自意識過剰と言われてもおかしくないセリフなのにイケメンだから許されてしまう…」
「圧倒的に足りない、あんたが」
「…!待って…死ぬ、待って…」
「あ、いや、あんたがというかあんたといる時間というかその…」

言葉を間違えたのか雫がみるみる顔を赤くしてその頬をすぐに両手で覆った。さらに座り込んで頭を抱えている。なんて忙しい奴だ。

「あーもうはじめはずるいんだよ、ほんとずるい。ちくしょー愛してるわ」
「もう少し言葉遣いをどうにかしろ。まだ俺はお前の告白に返事をしていない。だからその…どこか寄っていくか」
「ぜひお願いします」

手を差し出せば素直にそれを握り返してきたことに少しだけ心が揺れた。とりあえずその辺りで何か飲みながらこいつの話をゆっくり聞こうと思う。当然、自分に関すること以外だ。


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