内緒話

「ねぇねぇ内緒話をしよう?」

そう言っては笑いあって耳もとに小さく声を落としていたのはもう何年前か。
視線を上げればどこかけだるそうに外を見ている彼は幼なじみだ。小さい頃はとてもとても可愛い子だったのに今は背はでかくなるわ可愛げないことしか言わないわそのくせかっこいいというジャンルにシフトチェンジしてしまうわで散々なのだ。そう、散々だ。

私の視線に気づいて彼がその澄んだ目をこちらにやった。その目だけは変わらないから不思議なものだ。

「なぁに?」
「別に」

今は自習の時間でそれぞれが好きに過ごしている。騒ぎすぎさえしなければスマホをいじろうがマンガを読もうが勝手なのだろう。こうして小さい声で会話をする分には何も問題などない。

「じっと見てたじゃない」
「自意識過剰」
「そうかなぁ?そのわりには目が泳いでいるけど」
「うるさいよ総司」

余裕そうに笑うようになったのはいつのことか。何故か彼の掌で踊らされている気がして最近は落ち着かない。上から見下ろされるのも、少し低くなった声にも慣れたはずなのに。

「なんかふと思い出したんだよね。小さいときはよく手を繋いでいたじゃない?なのに雫はよく転んでさ、僕もつられて転ぶんだよね。それでも手を離さないとかよく考えればバカだよね」
「小さいときの総司は優しかったもんね。小さいときは」
「何で二度言うのさ」
「大事なことだからね」

手を繋いだなんていつの話だ。幼稚園とかでしょう?
そうか、内緒話もその頃だ。同じころを同時に思い出すなんてやっぱりこいつは幼なじみなんだな。
あの時は手を繋ごうが頬にキスをしようが互いに何も恥ずかしいことなんてなかったのに。どうして今となっては目が合うだけでこんなにも目が泳ぐのか。どうしてそれも私だけが。

「ねぇ雫」
「何よ」

視線を合わせられなくて返事だけすれば総司が椅子を近づけて私の隣へくっつける。その瞬間にふわりと香るそれは間違いなく総司のもので私の心音がスピードを上げていく。

「内緒話しようか?」

直前まで思い出していたそれに昔がフラッシュバックする。でも隣を見れば間違いなく今の総司で少し口角を上げた彼の顔が私の耳元へ近づいた。

「好きだよ」
「な!?」

小さい頃に何百回も聞いたそのセリフが久しぶりに私の耳元へ落ちてきた。
がたがたと音をたてる椅子に何人かこちらを見るが総司が微笑んで適当にあしらえば皆元通りになる。

「今…今何て」
「だから、僕は雫がす…」
「ありがとうございました!聞こえてました!」
「何それ、変なの」
「なんなのよ急に…」
「急に?昔からでしょ」
「そうなの!?」
「やっと気づいてくれたから最近態度がおかしかったのかと思ったらどうやら違うみたいだね」

椅子をひきずって自分の席に戻る総司はため息をついて私を見た。

「まぁでも。僕の気持ちに気づくより、自分の気持ちに気づいてくれて何よりだよ」
「こ…この自意識過剰!!!」

いくら怒っても笑っている総司には暖簾に腕押し糠に釘。
今に見てろ。
とっておきの内緒話を今度は私がしてやるから。

決意を胸に総司を見つめればがらにもなく彼は少しだけ頬を染めて視線を逸らした。
それにまた自分の心臓がうるさくなって、私達はいたたまれなくなったのであった。


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