うたた寝

昨日は夜遅くまで起きていたせいか、昼食を食べて一休みしていたらいつの間にか寝ていたようだ。今年は暖冬だ。窓から入る日差しがポカポカとあたたかくてソファの上でついうとうとしてしまった。ゆっくりと起き上がると自分の上にかけられていたブランケットがパサリと床に落ちた。

「…雫?」

一緒にいるはずの雫がいない。綺麗に片づけられたリビングもここから見えるキッチンも人影はなく、かといって隣の部屋からも音は聞こえない。

「どこに行ったのだ?」

テーブルに置いてあった携帯を手に取り雫に電話をしようとした瞬間、玄関のドアが開く音がした。多分買い物か何かに行っていたんだろう。起こしてくれれば良かったのにと思いつつ俺はすぐにソファに戻った。静かに近づく足音が俺が眠っているだろうと気を遣ってのものとわかる。ならば少し寝たふりでもしてみようじゃないか。


リビングのドアが開きゆっくりと足音はこちらへと向かっている。


「一、よく寝てる…昨日遅くまでテレビ一緒に見ちゃったもんな。」

テーブルにがさりと何かを置いて着ていたコートをハンガーにかけたであろう音、洗面所へと向かう足音。目を閉じていても雫がどのような行動をとるのかわかってしまうぐらいもう俺達は長い間を共に過ごしているのだなと実感した。

しばらくして戻ってきた雫はソファの下に座り込み俺を覗き込んでいるようだった。そして突然頬に触れられたことに思わず反応してしまいそうになるのをどうにかこらえる。ぷにぷにと指で俺の頬をつつく雫にそろそろ起きようかとした時の事だった。

「一、お誕生日おめでとう。って日付変わった瞬間も言ったけどさ。一が産まれてきてくれて幸せ、一緒に過ごせて幸せ。選んでくれてありがとうね。」

真っ直ぐなその思いに胸の奥がたまらなくなる。
俺は手を伸ばし彼女の後頭部に添えると自分の方へ引き寄せた。キスをしたのは計算外だ。

「は…はじめ!?起きてたの!?」
「ああ。」
「悪趣味!!!」
「何故?先ほどの言葉、嬉しかった。何よりも嬉しいプレゼントだ。」
「っ〜〜〜〜!まだプレゼント渡してないし!ケーキ買ってきたから一緒に食べよ?夜はごちそう作るから!!」
「ああ。」

ゆっくりと起き上がると先に立ち上がっていた彼女がこちらへと手を伸ばしていた。それを掴んで俺達はケーキが置かれているテーブルへと向かう。


「何度も誕生日はお祝いしてるけど、今年は特別ね。」
「?」
「ほら。」

雫が俺の目の前に左手を見せつけるように突き出す。薬指には銀色に輝く指輪があり、それは俺の左手にもつけられている。

「結婚して初めてのお誕生日だよ!!」
「…そうだな。」
「もう、一の誕生日なんだからもっとテンションあげていこうよ。」
「上がっているつもりだ。」
「嘘でしょ!?」

大げさな雫の反応に思わず少しふきだすとそれが嬉しかったのかくしゃりと笑った。その笑顔にああ、一緒にいてくれて、選んでくれて幸せなのは俺の方だと思ったがまだ言わないでおこう。いつか雫がうたた寝でもしていたら、その時にこっそりと伝えようか。




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