ばちんと音がしたと錯覚するぐらいにしっかり視線が合ってしまって私は慌てて目を逸らす。しばらくは彼の方を見ることはできない。私はそのまま持っていた本に視線を落とした。

南雲君と同じクラスになったのは今年が初めてだった。そこら辺の女の子よりも綺麗な顔で当然モテる彼だけど毒舌なせいか立ち向かう女の子はほとんどいなかった。私も話したことなんてなくて朝挨拶ができたらいい方(しかし大抵は無視)である。

なのに彼をこうして時々見てしまうのには理由があった。恋なんて大それたものじゃないと思っている。憧れだ。憧れなのだ。
さっきも言ったけど彼は思ったことはきっぱりと言う。それがたとえ相手を傷つけることになっても迷いがない。だからブレない。私は小さいころから引っ込み思案で自分の言いたいことをはっきり言うのが苦手だった。今でもそうだ。だからあんな風にすっぱりと自分の気持ちを言う南雲君がとてもとても素敵に見えた。どうしたらあんな風になれるんだろうと観察をしている結果、すっかり彼を見るのが日課になってしまったのだ。

とはいえ、今のは危なかった。もう少し気をつけなきゃねと本を閉じた時、自分の手元に影ができた。なんだろうと視線をずらすとそこには南雲君が立っていた…え?

「あのさ。」
「え!?」

南雲君から話しかけられるのなんて初めてで目がものすごい泳いでしまう。人見知りだから誰とでも話すのには勇気がいるのによりにもよって南雲君なんて!心の準備ができてないよ。

「お前、何で俺のこと見てるの。」
「え!?あ…えっと…。」

ばれてる!ばれていらっしゃる!どうしよう。完全に気持ち悪い奴確定してしまったよ。周りのクラスメイトもどうしたんだろうって顔でこっちを見ていた。まだ一学期なのに変な奴で一人ぼっちが決定するのは辛すぎる。

「それは…その…。」
「何。言いたいことがあるならはっきり言ってくれる?」
「それが…ご!ごめんなさい!!!」
「あ!おい…。」

ものすごい速さで教室を飛び出す。昼休みで良かった。ギリギリまで教室に戻らないようにしようと人気のない方へ走りながら考えていたらガシッと後ろから肩を掴まれて小さく悲鳴を上げた。

「何逃げてんの。お前俺に言えない後ろめたいことでもあるわけ?」
「ななな南雲君!!!は…速い。」
「当たり前だろ。お前足遅すぎ。」
「う…。」
「で、何で俺を見てんの。はっきり言えよ。」

もうここまできたら観念するしかない。恥ずかしいけれど全て吐くしかない。

「あ…憧れてました。」
「憧れ?」
「南雲君、思ったことはっきり言えるから。私なかなか言えなくて。羨ましくて、南雲君みたいになりたいなって観察していただけなんですごめんなさい。許してください。」

南雲君のことをちゃんと見れなくて彼の胸元あたりに視線を落として一気に言うと私は強く目を瞑った。何て言われるのだろう…怖くて彼を見られない。また逃げ出したいけれど多分追いつかれるから無駄な抵抗はしないでおく。

「お前、変。」
「ごもっともです…。」
「言いたいこと言えてるじゃん。まぁ目を合わせられないのはどうかと思うけどね、高校生にもなって。」
「ひぃ。」
「観察なんかしてないで普通に話しかけてくれば?そのうち俺みたいになるんじゃない?」
「え?」

そう言うと南雲君は踵を返して教室へと歩き出してしまった。その後姿をただ呆然と見つめる。
えっとこれはつまり…見てるぐらいなら話せよ気持ち悪いってことなのかなぁ?でも気持ち悪いとか思ったら話せなんて言わない…って期待してもいいのかな。

緩む口元を必死で押さえて私は彼の後を追った。

いつか南雲君みたいになんでも言えるようになったら、目を見てきちんと伝えよう。ずっとずっと憧れていましたって。



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