ひざまくら

「なぁ、普通逆じゃねえか?」
「何が?」

今流行りの芸人がたくさん出ているバラエティ番組をぼんやりと眺めながら私は頬に感じる温もりを満喫していた。突然上から降りてきた声に内容を把握していながらも疑問で返す。

「膝枕って男が女にしてもらうもんだろ、普通。」
「このご時世にそんなこと。どちらがしてもらってもいいんです。」
「俺の膝で寝心地いいのかよ。」
「固いです。」
「おい。」

そう、私は今トシに膝枕をしてもらいながらテレビを見ている。こんな姿きっと会社のみんなは想像もできないだろう。私たちは同じ会社で働いている同期。でも部署は違うし付き合っているということを周りは知らない。
私たちは最初の研修で意気投合し、時々二人で飲みに行くようになって付き合った。ちなみに今六年目。
トシは自分にも人にも厳しい性格だけどだからこそ信頼されているし何より女子のハートを独り占めです。ええ、独り占め。いや、最近入ってきた沖田君や斎藤君といった後輩達にも分散しているけれど未だトシ人気はすごい。何がすごいって彼女がいると公言しているのにも関わらず群がる女子が減らないんだからこちらとしては日々ハラハラするのだ。

「だってこうでもしないと。」
「あ?」
「トシを独り占めしてる時間がないと実感がわかないんだもん。」
「なんの。」
「彼女っていう実感!!!」

ぐるりと顔を上に向けトシを見つめると珍しく驚いた表情でこちらを見ていた。しばらくそのままの表情だったけれど小さく息を吐き目を閉じて眉間に皺をよせた。

「お前な…何年付き合ってると思ってんだ。」
「だってさ、トシに群がる女子がすごいんだもん。彼女がいたっておかまいなし!グイグイすごいじゃん…いつかあの波にトシが飲み込まれるんじゃないかと。」
「そんなもんにのまれるか。ったくくだらねえこと考えやがって。」

ぴしっとおでこを叩かれた。地味に痛い。おでこをさすりながら目を細めてトシを見ていると彼は眉間の皺を消した。がしがしと髪をかきテーブルのコーヒーに手を伸ばしている。ぐいっと一気に飲み干すと再びコップをテーブルに戻して私に向き合う。

「明日。」
「何?」
「買いに行くぞ。」
「何を?」
「…指輪。」

目を逸らしてぽつりと呟いた言葉を飲み込むのに時間をとってしまった。今、指輪って言った?
トシはおでこに置いたままだった私の手を握り薬指の部分をつつっと撫でる。

「ここにするやつだよ。お互いな。」
「え?それ…。」
「彼女がいるぐらいだと群がる奴もさすがに既婚者には群がらねえだろ。」
「トシ!?」

膝枕から急いで上体を起こそうとしたのにぐいっとそのまま押さえられた。しかも顔は横向きに戻される。

「今こっち見るな。」
「照れてるの!?突然プロポーズしちゃったから照れてるの!?」
「うるせえ!」
「トシ!」
「なんだよ!」
「大好き!!!」
「っ!!!お前わざとだろ!?」

どうやら赤面してしまったらしいトシの顔が見られないのは残念だけど私はニヤニヤしながら彼の膝に頬をすりつけた。
これからもここは私だけの特等席だ。





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